2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

12/31

大みそか首でも取ってくる気なり、なんて古川柳がある。歳末にツケ払いの催促に出向く商人の様子を詠んだ。戦国の武士よろしく、何がなんでも実をあげようと悲壮な覚悟がにじむ。お金が入ってこないと、自分の方だって年越しができない。懸命だったとみえる…

12/30

「青春時代に、人はたいてい恋をする」と漫画家の東海林さだおさんは述懐する。しかし入学した都立高校は戦前の男子校で新入生は男300人、女100人。全クラスの半分を占める男子だけの組で3年間を過ごし「女生徒と口をきくだけでも難事業」だったそうだ。 不…

12/29

男女対抗、つまり性別に基づく対戦形式は、体格や体力差が影響するスポーツでは成立しにくい。歌だからこそ男女平等のゲーム展開が可能となる。年末の風物詩、NHKの紅白歌合戦は、女性の活躍という戦後民主主義の規範を体現したものだったという。 元NHKアナ…

12/28

「越後縮」は、新潟県魚沼地域で古くからつくられている高級な麻織物だ。この土地の気候が、人の繊細な手仕事を支えてきた。江戸時代の書物によると、乾燥すると切れやすい糸を雪の湿気が守ってくれたという。「越後縮は雪と人と気力相半ばして名産の名あり…

12/27

作家の木山捷平は、毎年元日に受け取る年賀状の枚数を律儀に書きとめていた。昭和初期から36年間に及ぶ「酔いざめ日記」にその記述がある。駆け出しのころは「賀状十枚来る」「六枚来る」などとあり、戦時下は「一枚も来らず」が続く。枚数が増えるのは戦後…

12/26

動物界の主役交代が迫ってきた。ウシが迫ってトラきたる。干支が気になるのは、年越しを挟んだこの時期くらいだろうか。証券業界の格言では「丑つまずき」という。言葉のとおり、今年の株式市場はパッとしなかった。もちろん、ウシが悪いわけではまったくな…

12/25

「アスリートファースト」なる言葉が使われるようになったのは、この10年ほどのことだろう。オリンピックなど国際的なスポーツ大会の運営は、何より選手第一に。耳に心地よいからみんなが口にするが、さて、これほど現実と離れたキャッチフレーズもあるまい…

12/24

ロシアの作家、ドストエフスキーは常にお金の問題で悩み続けた。自身の賭博癖。無心に群がる親戚たち。人生最後の文章も、小説の印税を早く払ってほしいという編集者たちへのお願いだったという。今年生誕200年、没後140年を迎えた文豪の素顔は妙に人間臭い。…

12/23

青森県の津軽地方に「こぎん刺し」という布製品がある。江戸時代の庶民が着物を少しでも長持ちさせようと、麻布を刺し縫いし、厚みを持たせたのが始まり。15年ほど前に訪ねた弘前こぎん研究所で見たそれは、防寒着と呼ぶには美しすぎる工芸品だった。 藍色の…

12/22

ユズの香るお風呂に、かぼちゃの煮物、小豆がゆ。コンニャクという所もあるようだ。きょうは冬至。ならわしやゆかりの食べ物には、邪気を払ったり、寒さに向けて不足しがちな栄養を補ったりする意味合いがあるらしい。お日さまの力が回復へと向かう節目の日…

12/21

気鋭の歴史学者、與那覇潤さんは、そううつ病で大学教員を辞めた。「もう一度自分が本を書けるようになるとは、思いもしませんでした」。著書「知性は死なない」は、記憶力や意欲の低下で絶望の淵をさまよった言論人が、知性の本質に思いを巡らす一編だ。 自…

12/20

「21世紀、最も魅力的な職業」。10年近く前、米ビジネス誌がそう呼んだ職業がデータサイエンティストだ。IT(情報技術)の普及で集まる膨大な数字を解析し、確かな判断へ経営者を導く。ここに優秀な人材を得られるかどうかで企業の命運は大きく変わるという…

12/19

年の瀬が迫ると耳に届く「火の用心」の掛け声。この言葉が広く使われるようになったのは江戸時代だという。都市化が進み大火が相次いだ。大阪で最悪の被害だとされる「妙知焼け」(1724年)では、市中の3分の2にあたる約1万千軒が焼失した(新修大阪市史)。…

12/18

捨てられない性分ゆえ、1年の整理を迫られる師走がくると憂鬱になる。先日、古本を整理していたら入社した1989年の米ライフ誌が出てきて読み返した。特集のテーマは「守るに値する101のもの」。編集者が主観で選んだ身近で大事なものリストだ。 個人経営の本…

12/17

「短期間で自動的に消去されて復元できないようなシステムになってございますので、パソコン上にもデータは残っていません」。国会で森友学園に国有地売却の経緯を説明するように求めた野党議員に、こう答弁したのは当時の財務省理財局長。4年前のことだ。 …

12/16

「統計」という言葉が世の中に定着するまでには、ずいぶんと曲折があったようだ。英語のstatisticsをどう翻訳するか。幕末に福澤諭吉がひねり出したのは「政表」である。ほかにもいろいろな造語が現れるなか、洋学者の柳川春三が「統計」を考えたとされる。 …

12/15

現代と違い、夜通し街を照らす電気がなかったころの話だ。しかも場所はにぎわいから遠く離れた農村。「朝は朝星夜はまた夜星 昼は野畑の水を汲む」。暗いうちに畑に出て、日がどっぷりと暮れてから仕事を終える。江戸中期の民謡集「山家鳥虫歌」にある一首だ…

12/14

米国の児童文学「オズの魔法使い」の冒頭に中西部カンザス州での竜巻の兆しが描かれている。「ずっと北の方から、低くむせぶような風の音が聞こえてきて…」「ひゅうっと鋭い、口笛のような音が南の空から届き…」やがて、本体が襲った。 現地時間の10日夜から…

12/12

小林秀雄に「人形」という短い随筆がある。大阪行きの急行の食堂車で、上品な老夫婦と同席した。妻は大きな人形を抱いている。スープをまず人形の口元に運ぶ。その後、自分の口に入れたのだ。高明な評論家は察した。人形は戦争で失った我が子の分身なのだろ…

12/11

角界で俗に言う「ちゃんこの味がしみてきた」なんて言い回しがある。入門した力士が厳しい稽古を積んで番付を上げ、独特のしきたりにも慣れてきた様子を言う。いわば心技体がじわじわ充実しつつある感じだろうか。お相撲さんの成長をほめたたえる言葉のひと…

12/10

16〜17世紀のヨーロッパではチーズやバターがうまくできずに腐ると、魔女の呪いだといわれた。農作物が不作なのも、雌牛の乳が出なくなるのも、疫病がはやるのも魔女のせい。そんな迷妄が社会不安を背景に異端狩りの嵐となって吹き荒れる。多くの命が奪われ…

12/9

「聞く力」がご自慢の岸田首相は車座がかなりお好きなようだ。11月末の土曜日は午前に自衛隊員、午後にNTTの技術者と、2度もこのスタイルで対話している。閣僚や与党の幹部も手法を取り入れ、政権をあげて国民と目線を等しくし、注文を引き出す狙いだろうか…

12/8

80年前の12月、喜劇俳優の古川ロッパは家族や友人とともに熱海に遊んだ。日米開戦の直後である。東海道線の大船で駅弁を買い、旅館では温泉とグルメ三昧。「六時過ぎ洋食堂で、ポタアジュ他ビフテキ等」と日記にある。灯火管制もなく「熱海銀座はあかあかと…

12/7

野球日本代表の監督に就任した栗山英樹さんが、自著にこんなことを書いていた。「自分が進退をかけることで、選手のためになれることがあるんだったら、そんな幸せなことはない」(「稚心を去る」)。さらに、責任は「取る」ものではなく「果たす」ものであ…

12/6

日本のインバウンド政策は今に始まった話ではない。1930年代、鉄道省の国際観光局は競技場の整備こそ欠かせないと力説している。テニスコート、ゴルフ場、スケートリンク、これら明朗なるスポーツ施設なしに近代観光事業は万全と言い難いのであります。 豊か…

12/5

科学や数学の世界ではギリシャ文字がよく登場する。3.1415…と続く円周率π(パイ)。10年前の原発事故時、α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線の文字を度々目にした。Δ(デルタ)を見て変化を連想するのなら相当な理系人間と言えよう。 そんな人た…

12/4

中国のSF小説として初の世界的ヒットになったのが2008年に出版された「三体」だ。宇宙人が地球に攻めてくる物語だが、きっかけを作ったのは地球側の科学者だった。人間の愚かさ、残酷さに絶望した科学者が信号を送り、この星の存在を知らせてしまうのだ。 人…

12/3

カリブ海に浮かぶ旧英領の島国バルバドスは、日本の種子島ほどの大きさに約29万の人々が住む。その国がこのほど、エリザベス女王を国家元首にする立憲君主制から共和制に移行したという。女性の初代大統領は式典で「わが国は初航海に乗り出した」と述べたそ…

12/2

今年10月、首都圏で震度5強の地震があり、電車が止まった。タクシー待ちの長い行列にうんざりした方もおられよう。「帰宅難民」という言葉は、今さら説明不要だ。災害で公共交通機関が乱れ、人々が途方にくれる。10年前の東日本大震災を機に市民権を得た。 …

12/1

中国の四川省に「変面」という伝統芸能がある。仮面をかぶった役者が舞台に立ち、民族楽器の奏でる音楽に合わせて軽やかに舞う。くるりと回ったり、大きな袖で顔を覆ったり。一瞬のうちに別仮面になる。色とりどりのデザインは、喜怒哀楽を表しているという…