2022-01-01から1年間の記事一覧

12/31

・ペレ氏が逝去した。サッカーをサッカー以上のものに昇華させた、まさに偉人だった。 母国ブラジルでサッカーW杯が開かれた1950年、9歳のペレ氏にその模様を届けたのはラジオだった。音声のみの中継に「魔法のような魅力」があったと自伝で語っている(伊達…

12/30

・寅さんが語った大学に行く意味 ・日本学術会議の改革 「おじさん、大学へ行くのは何のためだ」。受験勉強中の満男が、ふと寅さんに尋ねる。その答えがいい。「長い間生きてりゃあ、いろんなことにぶつかるだろ。そんなとき、勉強したやつは自分の頭できち…

12/29 駅舎の重さと軽さ

れんが造りの東京駅は今から108年前の12月20日に開業した。その2日前、式典の当日は朝から打ち上げ花火の音がとどろいたという。1500人を超える招待客に、見物目当ての市民が駅前の広場にひしめく。そこへ、陸軍中将の神尾光臣らをのせた列車が着いた。 国民…

12/28 襟を正す

「襟を正す」は中国の史記に由来するそうだ。聖人を探す宋忠と賈誼(かぎ)が、長安に住む司馬季主という易者に会った。話を聞いてみると、発する言葉はことごとく道理にかなっている。見識の深さに驚き、感服したのだろう。2人は思わず「襟を正して正座した…

12/27 鳥インフルエンザ

昭和から平成にかけての俳人、上田五千石さんに「渡り鳥みるみるわれの小さくなり」という句がある。空を飛んでいく鳥を仰ぎ見る。するといつしか上空からの視点に転じ、ちっぽけな存在でしかない自分を意識する。広大な自然を前にした人の謙虚さが余韻に漂…

12/26 年賀状卒業

「年賀状」は新年の季語だが、「賀状書く」は、冬のそれである。例年、11月にはお年玉つきの年賀はがきが売り出される。寒波が到来する前にスッキリ片付けてしまうマメな方もおられよう。いよいよ押し詰まったこの時期の季語と感じてしまうのは怠け者の証し…

12/25 駅でのドラマ撮影

東京の会社員や学生は全員、京王沿線に住んでいる。もちろん事実は違うが、かつて映画やドラマの好きな人たちの間にそんな定番の冗談があった。多くの鉄道会社が東京圏にあるが、通勤・通学場面の撮影に協力してくれる会社はほぼ京王電鉄に限られていたから…

12/24 クリスマス休戦

第1次世界大戦中の1914年12月25日朝。最初に1人のドイツ兵が腕を振っているのが見えた。続いて何人かが塹壕から出てきた。銃は持っていない。英国兵は撃たなかった。やがて敵対する両軍兵士は杯をあげ、たばこを交換しサッカーに興じて、降誕祭を祝った。 世…

12/23 ゼレンスキー訪米

表向き休暇の滞在先と見せかけたテキサスの牧場から、目立たないシボレーで出発する。目深にかぶるのは野球帽だ。警護の車列は組まず、渋滞にもあえてはまりながら空港へ。大統領がひそかに危険な旅に出たことは、牧場の警護官たちすら気づいていなかった――…

12/22 雪国の辛苦

1944年から翌年にかけて、新潟県内は記録的な大雪に見舞われた。雪氷研究者でエッセイストの高橋喜平さんは、同県十日町市に赴任したばかりだった。日本有数の豪雪地帯である。この時に身の回りで見聞きした経験を、「豪雪記」と題した随筆に書き残している…

12/21 のびのびとした教育現場

「就職して一番おどろいたのは、学校が予想以上にいそがしい職場だったことである」。作家の藤沢周平さんが自伝「半生の記」に、新卒教員時代の思い出を書き残している。戦後まもなく、山形県の師範学校を出た青年は赴任した中学校でいきなり担任を持たされ…

12/20 W杯閉幕

ほぼひと月、世界を酔わせる熱き戦いが繰り広げられたサッカーW杯。アルゼンチンvsフランスの決勝は、両チームのエースが期待を裏切らない技巧を競い、歴史的な激闘の末、幕を閉じた。寝不足からは解放されそうだが、「W杯ロス」にしばし悩む方もおられよう…

12/19 ウクライナの冬

「十二月になると一日一日に時を刻む音が聞こえるようである」(山本周五郎「年の瀬の音」)。残すところ10日余、せかされるように年が暮れようとしている。冬本番らしく強烈な寒波がやってきた。積雪がさらに増すところもありそうだ。運転や除雪には十分注…

12/17 君たちはどう生きるか

作家の山本有三が昭和初期に編集、新潮社が発行したのが全16巻の「日本少国民文庫」だ。満州事変を経て軍国主義が日本を覆い、自由な執筆が年々難しくなっていた時代。「子どもたちだけはまっすぐ伸びてもらわなければ」と自ら出版社に企画を持ち込んだ。 山…

12/16 杜撰の競演

その昔、中国に杜黙という詩人がいた。この人の作品は音律に合わないことが多く、とても評判が悪かったらしい。それで杜の撰(詩文づくり)のような、いい加減な仕事を「杜撰」と言うようになったそうだ。しばしば新聞の見出しにもなる「ずさん」の語源であ…

12/15 病の改名の意義

認知症とはよくできた名前だと、身内が発症してつくづく実感した。一般には物忘れのイメージが強いが、そう単純な病気ではない。ここがどこで今がいつか。文字通り空間と時間を認知する能力がじわじわと失われる。ボケと痴呆という語感では実態を伝えていな…

12/14 こづかいの使い方

いまの子どもはこづかいを何に使っているのか。少し古いが、2015年の金融広報中央委員会の調査から引く。小学生は「おかしやジュース」、中・高校生では「友達との外食・軽食代」がトップだ。その後に「ゲームソフトやおもちゃ類」「まんが」などが続く。 05…

12/13 ヤングケアラーの未来

壺井栄さんの小説「二十四の瞳」は瀬戸内の島が舞台になる。昭和の初め、岬の分教場に赴任した主人公の大石先生は小学1年生12人の担任となった。子供らは4年生まで地元の分教場で過ごし、5年生から片道5キロを歩いて本村の学校まで通うことになっていた。 初…

12/10 副詞の意味

ヘミングウェイは副詞を嫌ったという。「日はまた昇る」「誰がために鐘は鳴る」「老人と海」…。どの作品も修飾語の少ないシンプルな文体だ。しばしば指摘されるその特徴を「数字が明かす小説の秘密」(ベン・ブラット著、坪野圭介訳)なる本が分析している。…

12/9 ゼロコロナ緩和

条件反射の研究で知られる生理学者のパブロフは犬を使って実験をしているとき、思わぬ障害につまづいた。実験机の台に乗せ、足にゆるい輪をはめてみたところ、時間がたつにつれて興奮し、逃げようとして暴れ出した。これがずっと続き、実験をいったん中断し…

12/8 宅配の未来

空から異物が降る話は古くから世界各地に伝わる。江戸期の百科事典「和漢三才図会」には「怪雨」の項目がある。草や魚、獣毛などが降った記録が中国にあり、国内では元禄15年(1702年)に綿が降ったという。原因を「地上のものを風が運んだ」と説いている。 …

12/7 御免芸

「ごめんね」っていうと/「ごめんね」っていう。この2週間ほど金子みすゞの詩のように「ごめんなさい」が日本列島にこだましていたのではないだろうか。そのひと言の先にはサッカー日本代表の森保一監督、そしてフィールドを縦横に走り回る選手がいた。 開幕…

12/5 現代の蹴聖

「剣聖」と称されるのは二刀流の宮本武蔵、「楽聖」はベートーヴェン。では「蹴聖」をご存じか。平安時代の貴族、藤原成通である。古今無双の蹴鞠の達人とされる。中沢新一著「精霊の王」によれば、2千日にわたり連日興じ、病床でも布団をめくり蹴ったそうだ…

12/4 民主主義とは何か

好き勝手、やりたい放題というほかない。米ツイッターを買収したイーロン・マスク氏である。「長時間猛烈に働く」ことに同意できない従業員はクビ、アカウントが本物だと保証するお墨付きを得たければ、利用者は毎月8ドル払え。ワンマンぶりが際立っている。…

12/2 2類から5類へ

その昔、落語家の誰かがマクラに使ったのが始まりだという。いわく「こんどとオバケは出たことがない」。忘れられた昭和言葉かと思いきや、ネット上に散見されて生き残っている。いつの世にも「こんど食事を」「近いうちに一度」は幽霊みたいなものだ。 新型…

12/1 中村哲さん

「極月の人々人々道にあり」(山口青邨)。極月とは1年が極まる月、つまり12月のことだ。さまざまな事情を抱え、往来を慌ただしく通り過ぎる人々。そんな街角の情景を吟じた一句だろうか。今年もいつの間にか、押し詰まってきた。きょうから、師走である。 …

11/29 日本サッカーの40年

東京・葛飾の京成線四ツ木駅は、構内がキャプテン翼一色だ。作者の高橋陽一さんが地元の出身で、翼くんの等身大フィギュアが乗降客を出迎える。すぐそばを流れる荒川の河川敷のグラウンドでは先の週末も、青空とススキを背に子供たちがボールを追いかけてい…

11/28 気軽な上映会

先日、仕事帰りの夜に小さな映画の上映会に参加した。向かった先は東京・神楽坂の路地裏にある、民家を利用した交流スペース。靴を脱いで玄関をあがり、ストーブで暖まった板の間に足を伸ばし座る。マグカップのコーヒーなどを手にする、この日の観客は4人だ…

11/27 芸術を汚す活動家

ゴッホは1888年、ゴーギャンと共同生活を始めた。仲間たちと一緒に作品を制作するアトリエを作るという夢を実現するためだった。ゴーギャンを迎えようと、部屋の装飾用にひまわりの絵を描いた。だが2人の個性がぶつかり合い、共同生活はすぐに終わった。 世…

11/26 嗅覚について

落ち葉を焚く香りに気づくと、冬の訪れを感じ、夕暮れまで駆け回って遊んだ遠い日の記憶が呼び覚まされる。都心で燃しているのではないだろう。遠く離れた山や田畑から澄んだ空気が運んできたものか。顔を上げて、見えない煙がたなびくその先をたどりたくな…