2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

11/29 日本サッカーの40年

東京・葛飾の京成線四ツ木駅は、構内がキャプテン翼一色だ。作者の高橋陽一さんが地元の出身で、翼くんの等身大フィギュアが乗降客を出迎える。すぐそばを流れる荒川の河川敷のグラウンドでは先の週末も、青空とススキを背に子供たちがボールを追いかけてい…

11/28 気軽な上映会

先日、仕事帰りの夜に小さな映画の上映会に参加した。向かった先は東京・神楽坂の路地裏にある、民家を利用した交流スペース。靴を脱いで玄関をあがり、ストーブで暖まった板の間に足を伸ばし座る。マグカップのコーヒーなどを手にする、この日の観客は4人だ…

11/27 芸術を汚す活動家

ゴッホは1888年、ゴーギャンと共同生活を始めた。仲間たちと一緒に作品を制作するアトリエを作るという夢を実現するためだった。ゴーギャンを迎えようと、部屋の装飾用にひまわりの絵を描いた。だが2人の個性がぶつかり合い、共同生活はすぐに終わった。 世…

11/26 嗅覚について

落ち葉を焚く香りに気づくと、冬の訪れを感じ、夕暮れまで駆け回って遊んだ遠い日の記憶が呼び覚まされる。都心で燃しているのではないだろう。遠く離れた山や田畑から澄んだ空気が運んできたものか。顔を上げて、見えない煙がたなびくその先をたどりたくな…

11/25 就活の意味

「就活って、トランプでいうダウトみたいなもんなんじゃねえの」。事件の記事を読み、朝井リョウさんの「何者」のセリフをふと思い出した。主人公いわく、面接で一を百と言うのは「バレなきゃオッケー」。友人と手分けして、ウェブテストを解く場面も描かれ…

11/24 タートルネック

写真家の林忠彦は戦後まもない時期から、文士の肖像を撮り続けた。被写体になった作家たちの多くは粋な着流し姿である。それが1960年代後半ごろの売れっ子となると、ずいぶん雰囲気が違ってくる。首をすっぽりと覆うタートルネックのセーターが目立つのだ。 …

11/23 W杯と政治

第1回のサッカーW杯は独立100周年を迎えた南米ウルグアイで1930年にあり、優勝も果たした。決勝で敗れた隣国アルゼンチンの首都ではウルグアイ領事館が襲われ、以後、両国は7年の断交に至る。第2回、34年のイタリアは「史上最悪の大会」と呼ばれた。 ムッソ…

11/22 損切りの決断

「見切り千両、損切り万両」という相場の格言がある。株式投資は、買いよりも、売りの方が難しいようだ。さえない銘柄を見切る決断は、千両に値する。値下がりした銘柄に執着せずスパッと損切りする度量は、さらに10倍の価値がある。そんな教訓である。 人間…

11/21 W杯開幕

球技が苦手だ。中でもサッカーはからきしだ。Jリーグ発足に列島が沸くのをよそに、高校のクラス対抗サッカー大会は憂鬱で仕方なかった。サッカー部のイケメンが放課後に下手っぴを集めて特訓をするのだが、焼け石に水。本番ではボールにさわれもしなかった。…

11/20 飲食の人手不足

明治の終わりごろの話だろう。美食家として名をなす前の北大路魯山人がビアホールで洋食を頼もうとした。しかし「ビフテキ」が野菜か肉か、あるいは飲み物なのか、まったく分からない。隣の客の声に耳を澄ませ、運ばれた料理を確認して、その名を覚えたとい…

11/19 円安は喜ぶべきか

むかしむかし、円が世界で一番強かった頃。岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」は、そんな英語のナレーションで始まる。公開されたのは1996年。バブル景気は去り、未来が見えにくくなった時代だ。作品は日本への移民たちが住む架空の街が舞台になる。 住民…

11/18 月への旅

197x年、アポロ宇宙船が月に向けられて打ち上げられた。雲のようなものを噴き出す謎の火口を調べるのが目的だ。ところが乗組員の1人が探査中に事故に遭い、月に取り残される。というのは架空の話。手塚治虫さんが約半世紀前に描いた「クレーターの男」だ。 …

11/17 人口という怪物

1941年1月。アジアでも戦雲はいよいよ急を告げていた。そんな時期に政府が閣議決定したのが「人口政策確立要綱」である。「東亜共栄圏」の建設と発展のためには「わが国人口の急激にしてかつ永続的なる発展増殖」が必須と説き、産めよ殖やせよを督励した。 …

11/16 不要なルール

「ヘアドネーション」という言葉をご存じだろうか。小児がんなどの治療で髪の毛を失った子どもたちに、医療用のかつらを無償で提供する非営利活動だ。「男子だって役に立ちたい」。そんな志で髪の毛を伸ばす中学生の兄弟を昨年、取材した。笑顔がまぶしかっ…

11/15 韓国の絵本文化

お隣の韓国で、初の絵本が出版されたのは1980年代末。ソウル五輪のころ経済成長をとげ、言論や出版の自由が広がったのが背景だという。日韓の絵本を紹介する、千葉市美術館で開催中の展覧会で知った。大正期から100年超の日本に比べ歴史の短さに驚く。 76年…

11/13 指点字での対話

「指点字」をご存じだろうか。目と耳いずれも不自由な人向けのコミュニケーション手法だ。相手の手に自分の指を重ね、点字タイプライターに見立ててタップする。左手の人差し指で打てば「あ」、といった具合だ。慣れるとかなりの速さでやりとりできるという…

11/12 私たちの星を守る

先日、初めて高速バスの一番前の席にすわった。温泉行きの、のどかな旅の朝である。眼前に広がる青空いっぱいに、ひつじ雲が群がり踊る。リズミカルに散らばる柔らかな白が、紫がかった天空のキャンバスの色を際立たせていた。深まりゆく季節ならではの情景…

11/11 「み」が増殖中

「み」が増殖中だ。「すごみ」「おかしみ」「ありがたみ」などというときの接尾辞「み」である。一部の形容詞に付いて名詞をつくるのだが、これが最近はいろいろな言葉にくっついている。「やばい」から「やばみ」が生じ、「つらい」から「つらみ」が出現し…

11/10 イーロン・マスク

米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が早世して11年が過ぎた。自由の国に受け継がれるベンチャー精神を体現した。「ハングリーであれ。愚かであれ」。スタンフォード大の卒業式で人々を感動させた式辞だ。話題のこの人も金言を実践しているように見え…

11/9 時短至上主義の裏側

フジテレビ系のドラマ「silent(サイレント)」が、若い世代に人気だという。毎週の放映直後からネットに感想が多数投稿され、撮影したカフェに行列ができる。真犯人は誰だ、その手がかりは、といった最近よくある推理モノとは違う。静かな恋愛の物語だ。 高…

11/8 要注意の人事選び

「企業のトップはどのような人間を重用する傾向があるか」。イオン(旧岡田屋、旧ジャスコ)を草創期から担い、5月に106歳で死去した同社名誉顧問、小嶋千鶴子さんが著書でこう問うている。答えは、真実を真実として伝えない虚構性の強い人間なのだという。 …

11/7 医療逼迫対策とは

江戸の頃、今でいうインフルエンザが流行ると世相を映したあだ名がついた。「お駒風」「アンポン風」等。天明年間の「谷風」は第4代横綱の谷風梶之助に因んだものだ。「倒れているのを見たければ儂が風邪にかかった時に来い」。負け知らずの力士はこう嘯いた…

11/6 新紙幣の存在感

「現金だけ。すみませんね。現金だけなんですわ」。タクシー料金を払おうとしてクレジットカードを差し出したら、高齢のドライバーが申し訳なさそうに言う。「Suicaは?」「それもダメなんですよ」「PayPayも…」「すみませんな。現金だけですわ」。 つい先日…

11/5 北朝鮮と秋の空

11月に入って首都圏は好天に恵まれている。抜けるような青空が広がり、すがすがしい。夏の太平洋高気圧に代わり、今の季節は大陸育ちの移動性高気圧が主役だ。大気中の水分や塵が減って青が濃くなり、空がどこまでも続くように見える。天高く馬肥ゆる秋であ…

11/4 SDGsを笑いで伝える

「昔々、おじいさんとおじいさんが一緒に暮らしていました」。「おばあさんじゃなくて?」。漫才はそう始まった。物語は桃太郎のパロディーで、主人公は武器ではなく六法全書と契約書で悪と戦う。先ごろ横浜市立大学が開いた「SDGs漫才」発表会の優勝作だ。 …

11/3 盆踊りの伝統

東京23区内の盆踊りは、オンシーズンに1千件近くもあるそうだ。幕開けは6月の赤坂・日枝神社。踊り納めは10月に日本橋かいわいで開かれる「べったら市」での盆踊りだという。熱烈な「盆オドラー」で知られる佐藤智彦さんの著書「東京盆踊り天国」に教わった…

11/2 短詩に宿る言霊

先週末、横浜市の神奈川近代文学館で連句会があった。参加者が五七五の長句と七七の短句を交互に詠み、ひとつの作品世界を完成させる。松尾芭蕉は各地で連句の会を催し、門弟を育てた。最初の句(発句)の情景から、短詩の小宇宙を創造する「座の文芸」であ…

11/1 海外交流の魅力

「ただいま」「おかえり〜」。那覇の町が喜びの声であふれた。世界各地の沖縄出身者やその子孫を迎えて親睦を深める「第7回世界のウチナーンチュ大会」がきのう開幕。北米や南米、東南アジアなど21の国・地域からおよそ8500人がセレモニーに参加したのだ。 …