2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

3/31 論理国語と文学国語

「世の中には二種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことのない人だ」とは村上春樹さんの言葉だ。ドキッとする。ドストエフスキーの名作だが相当分厚い。粗筋だけはなんとなく知っている、という方も多いのではない…

3/30 マイダン革命

たった数時間なのに、見終わるころには登場人物が他人とは思えなくなる映画がある。ウクライナのマイダン革命を追ったドキュメンタリー「ウィンター・オン・ファイヤー」がそうだ。2013年〜14年、自由と民主主義を求めて圧政に抗った人々の93日間に密着した…

3/29 アカデミー賞発表

その瞬間、米ロサンゼルスの授賞式会場にいた出席者が立ち上がり、一斉に両手をひらひら揺らして祝意を示した。映画の祭典アカデミー賞の作品賞を受賞した「コーダ あいのうた」。複数のろう者俳優が主演を務める初のハリウッド映画へ手話で拍手を送ったのだ…

3/28 聴衆のヤジ

戦後の宰相、吉田茂の三女、麻生和子さんの随筆「父 吉田茂」は、互いに憎まれ口を交わす親子ならではのエピソードが満載で実に楽しい。マッカーサーに「わが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかっただろう」と語った逸話も紹介する。…

3/27 ボイジャーのディスク

日に日に朝の訪れが早まっている。東京の今日の日の出の時刻は午前5時35分、大阪は同じく53分。いずれも先月の節分のころより、1時間以上も早い。天体の図鑑のさし絵を頼りにイメージすると、地軸の傾いた地球が太陽の周りを動いていったということだろう。 …

3/26 チェコの初代大統領

国の優れたリーダーで文化人でもあった20世紀の為政者というと、英首相でノーベル文学賞もとったチャーチルが有名だろう。知名度はやや下がるものの、東欧チェコスロバキアにも哲学者マサリクが、そしてもう一人、無血のビロード革命を率いた劇作家がいた。 …

3/25 スピーチ

福沢諭吉は明治の新しい世の中にとって、言葉の力がいかに大切かを強調した。「学問のすゝめ」の中で「演説とは英語にて『スピイチ』と言い」と説き起こし、「思うところを人に伝うるの法なり」と紹介した。それが大事な場の一つにあげたのが「政府の議院」…

3/24 情報技術の負の側面

小説「モンテ・クリスト伯」にはサイバー攻撃が登場する。歌人で情報科学者の坂井修一さんが以前、本紙のコラムで紹介していた。時は19世紀。むろんインターネットはない。手旗信号のように棒の形で情報を伝える「腕木通信」と呼ばれるネットワークが狙われ…

3/23 需給逼迫警報

11年前のいまごろ、ネット空間では「ヤシマ作戦」が話題になっていた。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」になぞらえた節電運動だ。日本中から電力を集め、敵を倒すためのエネルギーに使う。そんな物語にちなんだ電力危機回避の運動が広まったのである。 当時…

3/22 ウクライナ側に立つ市民

「どっと寄せられました」。先週土曜日の本紙「俳壇」欄で、選者の黒田杏子さんが評を記していた。「みなさん、ウクライナの側に立たれているのです」。選ばれた12の句それぞれがロシアの侵攻を指弾し、行く末を案じつつ、一刻も早い平和を願っている。 「竹…

3/21 まん防解除

各地から届き始めた桜便りにせかされて、おととい近所の公園に足を運んだ。東京の開花宣言に先んじて1輪、2輪。控えめな花びらが見える。「三日見ぬ間の桜」と言うように、咲き始めてからは俊足だ。1週間もすると、あたりは笑顔と歓声で満ちるのだろう。 ソ…

3/20 文化遺産への攻撃

アフガニスタン全土はいま「無音の爆撃」にさらされている。現地の考古学者の悲痛な声を国際的なアート専門誌が紹介していた。支配者タリバンが、また仏教遺跡を破壊しているわけではない。が、目に見える暴力よりも深刻な事態が国をむしばんでいるという。 …

3/19 コロナ下の学園生活

東京駅前の広場でつい先日、はしゃぐ女性の一団を見た。フォーマルなスーツに黒ガウンを羽織り、頭に角帽。卒業を迎えた大学生たちらしい。レトロな駅舎を背に帽子を空に投げ、肩を寄せピースサイン。ポーズを変えるたびに、飽きずにスマホのシャッターを押…

3/18 首都圏停電

「日常」の脆さを痛感したのは、2018年9月、胆振東部地震に遭遇したときである。あの未明、出張先の函館市のホテルは停電で闇に包まれた。エレベーターが止まり、断水でトイレが流せず、コンビニからは食料や乾電池が消えた。電子マネーも使えない。 それが…

3/17 戦争避難民の受け入れ

2002年7月、天皇、皇后両陛下(いまの上皇ご夫妻)はポーランドを公式訪問された。在ワルシャワ日本大使館で開いた親善パーティに、当時91歳の男性が招かれた。命あるうちに美智子さまにお目にかかり、お礼を申し上げたい。そんな夢がかなったのだ。 彼の名…

3/16 チャイカの翼

「かもめ」を意味するロシア語、チャイカはウクライナの伝統的な名字でもあるらしい。19世紀後半に交響曲やバレエ音楽などの傑作を世に送り出したチャイコフスキーの祖父も、この地の出身でチャイカから改名した。自治的な戦士集団コサックの一員だったそう…

3/15 原発への攻撃

30年前、若狭湾に面した原発を取材で初めて訪れた。真っ青な空の下、近くでのんびりと釣り糸を垂らす地元の人々。その姿がなぜか目に焼き付いている。発電設備を冷やし終えて温まった水が海へ流れ、格好の釣り場を作ると教えてもらった。静かな時が流れてい…

3/13 日本スゴイの幻想

あれは日本人を油断させるための呪文だったのでは…。いまでは、そんな思いさえ抱いてしまうのが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉である。このタイトルを冠した米ハーバード大教授、エズラ・ボーゲル氏の著書は70万部を超すベストセラーになった。…

3/12 韓国の政権交代

「夢判断」などの著作で知られるジークムント・フロイトは第1次世界大戦をはさみ、思想面で劇的な変化をとげた。近代兵器の導入が、欧州で引き起こした未曾有の惨禍の影響もあったのだろうか。人間には、破壊を求める攻撃的な欲動があると考えるようになった…

3/11 震災の記憶

折れ曲がった鉄筋。流され積み重なった自動車。汚れたままの本、学習道具、家電製品。11年前のきょう、東日本を地震と津波が襲った。その被害状況の一部をそのまま残し、展示する施設が東北各地に生まれている。震災遺構である壊れた校舎を用いたところも多…

3/10 無差別攻撃の悪

第2次世界大戦後、連合国が日本の指導者の戦争責任を追及した極東国際軍事裁判(東京裁判)。被告人の無罪を主張したインドの法学者、パール判事は、意見書のなかで第1次世界大戦当時のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が述べたとされる言葉を詳しく紹介している。…

3/9 マイナンバーカード

「デザイン経営」という言葉を、しばしば耳にする。特許庁のホームページによれば「デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法」。かみくだいて言えば、おしゃれな感覚でモノやサービスや新しい事業を生み出すことだろう。 そう…

3/8 空襲の恐怖

太平洋戦争で日本本土への空襲が初めてあったのは1942年4月のこと。洋上の空母から発進した十数の爆撃機が東京、横浜などを狙ったという。緒戦勝利の余韻にひたる日本の軍部は衝撃を受けたと伝わる。本格化するのは45年、終戦の年に入ってからだ。 陥落した…

3/7 冷戦時代の回帰

時の指導者スターリンを批判し、逮捕され強制収容所へ。その体験を小説にし、後にノーベル文学賞を受賞するが国外追放に。作家ソルジェニーツィン氏が弾圧や出版社の自己規制などをつづる回想録をパリで出版したのは1975年。まだ冷戦の出口が見えない頃だ。 …

3/6 パラリンピックと平和

パラリンピックの生い立ちは戦禍と深くつながっている。精神科医のルートヴィヒ・グットマンが、前身となるストーク・マンデヴィル競技大会を開催したのは1948年。参加した選手は16人。第2次世界大戦で脊髄を損傷し、下半身がまひした元兵士たちだ。 生みの…

3/5 プーチンを理解せぬ者

「戦争が廊下の奥に立つてゐた」。昭和初期に活躍した俳人、渡辺白泉の句である。重苦しい影が、知らぬ間に日常に忍びこむさまを詠んだ。こんな作品も残る。「玉音を理解せし者前に出よ」。旧軍の施設で終戦を告げる昭和天皇のラジオ放送を聞いている姿だろ…

3/4 核シェアリング

カーシェア、ルームシェア、ワークシェア…。モノやサービスを共有したり、仕事を分かちあったり、近年何かと注目されるのがシェアリングの発想だ。これを支える新しいビジネスも次々に生まれている。持続可能な社会づくりのためにシェア経済の役割は重い。 …

3/3 琥珀の国

琥珀には地味なイメージがある。しかしジェームズ・A・ミッチェナーの小説「ポーランド」(工藤幸雄訳)では詩人があめ色の宝石をたたえる。目に痛むダイヤモンドの輝きやこれ見よがしの黄金の厚かましさがない。「秋の穂波の上にかかる月の光」のようだ、と…

3/2 トルストイの平和思想

「戦争はまたも起こってしまった。誰にも無用で無益な困難が再来し、偽り、欺きが横行し、そして人類の愚かさ、残忍さを露呈した」。1904年6月、日露戦争が勃発して4ヶ月後にロシアの作家トルストイは、非戦を訴える長大な論文を英タイムズ紙に寄稿した。 冒…

3/1 ひまわり

「駅」という言葉は、どこかもの悲しい。これまで、どれほどの人びとの出会いや離別の場になったのか。古里の駅から戦地に出征する親族を見送った。でも、それが今生の別れになってしまった。セピア色のつらい記憶をお持ちの戦中世代の方も、おられるかもし…