2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

5/31

よく知られているように、ゴジラは海底で眠っていた太古の生物が水爆実験の放射能で巨大化し、日本を襲うという設定だ。重い思想的な背景を持つ作風が特徴の武田泰淳は、この架空の生物を題材に60年あまり前に短編を書いた。タイトルは「『ゴジラ』の来る夜…

5/30

コロナ禍で旅行が難しい中、鉄道好きの関心を集めたのが高輪築堤の発見だ。明治政府による海上鉄道の跡が、都内の品川駅近くの車両留置線用地の再開発で見つかったのだ。錦絵が描かれた大工事の痕跡は貴重な文化遺産。JR東日本は一部を現地保存すると決めた…

5/29

50年前の5月30日、イスラエルの空港で20代半ばの日本人3人が自動小銃を乱射した。手投げ弾も使われ、死傷者は約100人に上った。「涙さそう幼女の遺体」。惨劇を伝える本紙の一報には、佐藤栄作首相が「日本人がそんなことをやるかね」と訝る様子も見える。 …

5/28

旅先で困ったとき、ちょっとした心遣いを受けた経験は、いつまでも記憶に残るものだ。330年ほど前、江戸から北へ向かった松尾芭蕉も、思い出を「奥の細道」に記している。今の暦で5月半ばに出発した俳聖らが、現在の栃木県あたりへたどり着いたころのこと。 …

5/27

切手やコインを商う40歳の男性が、ひょんなことから自民党公認候補として川崎市議会補欠選挙に出馬する。人脈も後援会組織もない。政治の素人が展開するドブ板選挙にカメラを向けたのが、07年に公開されたドキュメンタリー映画「選挙」だ。 小泉純一郎政権の…

5/26

旧ソ連にトロフィム・ルイセンコという農学者がいた。1934年、種を低温処理する「春化」によって小麦の収穫量が上がり、秋まき小麦を春まき小麦に変えられるとの学説を、自ら編集する学術誌に発表した。科学史上最悪のねつ造とされるルイセンコ事件である。 …

5/25

人類は長い間、天然痘(痘瘡)との闘いをくり返してきた。医学者の富士川游が明治末に著した「日本疫病史」ではこの疫病について多くのページを費やし、8世紀の天平年間から近世までの苦難を克明につづる。記録にあるだけで、流行は60回近くに及ぶという。 …

5/24

北欧のフィンランドは世界ではじめて政府認定のEmoji(絵文字)をつくったそうだ。その数50余り。言葉で説明しにくいフィンランド人の気質やお国柄を表しているという。外務省によるサイトが、ジョークあり自虐ネタありの愉快な解説つきで紹介している。 た…

5/23

この連休中、ミニシアターをのぞくと、濱口竜介監督の作品を特集していた。「親密さ」という映画にこんなセリフがある。「言葉は想像力を運ぶ電車です」「世界って情報じゃないでしょ?」。対話を手段にした作品である。4時間余りの長尺だが満席に近かった。…

5/22

雨続きの後に注ぐ日差しの強さに、また夏がやってくると肌で感じる季節になった。地面を見て気づくのは、小さな草の芽の数々だ。ぴんと細く伸びて上を目指したり、「し」の字を逆さにした格好で土を持ち上げたり。軟らかくみずみずしい緑が、生命の息吹を映…

5/21

「復職おめでとう、いや、ありがとう、ですね」。食品宅配大手オイシックス・ラ・大地の「復職式」を先日、見学した。高島宏平社長の感謝の言葉から式は始まる。育児休業から復帰する男女12人の社員を歓迎する場で、今年が6年目。近年はオンラインで開催する…

5/20

落語の「芝浜」に、拾ってきた財布の金を数える場面がある。魚屋の熊五郎と女房が、震える手で「いち、にい、さん。ひい、ふう、みい…」。声を潜めて勘定して「42両!」。演者によって額はまちまちだが、まさかの大金が運命を変えていくのはご存じのとおりだ…

5/19

豊臣秀吉の息子、秀頼は幼名を「拾丸(ひろいまる)」といった。早世した兄は「棄て(すて)」。名前らしからぬ、と思わぬでもないが、「捨て子はよく育つ」という民間信仰が由来と聞けば合点がいく。天下人が晩年に授かった大事な跡取りである。何よりも健…

5/18

五月病という現代の病は1968年ごろから日本社会に広まった。新入社員や大学1年生が新しい環境になじめず、だるい、つらいといった心身の不調を訴える。今年はその様相が例年とは少し違うとラジオで紹介していた。コロナの影響がこんなところにも、と思う話だ…

5/17

仏教でヤナギは、その薬効から霊木とされる。奈良市の古刹、大安寺には、かつて枝を手にしていたらしい楊柳観音が伝わる。京都の三十三間堂でも、祈願した浄水を参拝者に注ぐ「楊枝のお加持」が古くから行われ、頭痛封じにご利益があるそうだ。 19世紀に入る…

5/16

鉄道紀行の名作「時刻表2万キロ」に、兵庫県の加古川線が登場する。著者の宮脇俊三は国鉄全線の「完乗」をめざして旅を続け、このローカル線には1975年の大みそかに初めて足を踏み入れた。「地味ではあるが、人口密度の濃い地域なので接続も概してよい」 そ…

5/15

先の連休に帰省して久しぶりにふるさとの言葉に浸った方もいるだろう。生まれ育った土地の「母語」でしか、伝えられない心の内というものは確かにある。方言に限らず、言語は自分がどこから来たのか、何者なのかをあかし確かめるアイデンティティーそのもの…

5/14

垣谷美雨さんの小説「うちの父が運転をやめません」は、死ぬまで運転すると言い張る郷里の親に、東京暮らしの息子が手を焼く話だ。80歳を目前に車に擦り傷を重ねても「事故を起こすのは老人だけやない」と突っぱねる。説得に窮する息子の姿が、我が身に重な…

5/13

笑いは緊張の緩和によって生じる。そう説いたのは、上方落語の爆笑王、二代目桂枝雀さんである。最近、ビジネスの世界で「アイスブレイク」という言葉を聞く。氷を砕く。初対面の人が集う会議や研修の緊張した空気を和ませるコミュニケーション術のことだ。 …

5/12

20年前以上前の取材なのだが、今も時折、思い出す。今年1月に86歳で亡くなった児童文学の研究者で作家の松岡享子さんにお会いし「子どもが本の世界に親しむには」との趣旨で、お話をうかがった時のこと。数々の傑作を世に送った松岡さん、意外にもこう口にし…

5/11

明治維新で活躍した人たちには、囲碁の愛好家が少なくない。とりわけ有名なのが大久保利通だ。島津久光と懇意にしていた碁の達人のもとに通い、久光に近づくきっかけをつかんだとの逸話が残っている。このころ大久保は一日中碁盤に向かっていたという。 伊藤…

5/10

「北海道の自然林では、えぞ松は倒木のうえに育つ」。幸田文さんのエッセー「えぞ松の更新」にそんな一節がある。多くの種が発芽しても育たない寒冷の地。しかし倒木に落ちることのできた種は、古木がたくわえた水分や栄養も得て何十年、何百年を生きるとい…

5/8

米ニューヨークからのえりすぐりの名画が並ぶ東京都内の「メトリポリタン美術館展」に足を運んだ。「西洋絵画の500年」と副題にある通り、時代を彩った数々の逸品のなかで、何点かある「聖母子」に引きつけられた。まだ幼いイエスを抱くマリアが描かれている…

5/7

車が走ればどこかで渋滞が起きる。万国共通であろう。2017年に日本でもヒットした米映画「ラ・ラ・ランド」はハイウェー上のシーンで幕を開ける。動かない車列。突然運転席を降りた女性が軽やかに踊り出し、バンドも現れて路上は華やかな舞台のように。 あん…

5/6

核兵器の使用や第3次世界大戦。何十年も仮定の底に沈めてきた言葉を嫌々見つめ直さねばならない仕儀となった。何かの参考になればと手に取ったのが、スイス政府発行の指南本「民間防衛」(邦訳版、原書房)である。同国は2世紀前から永世中立をうたってきた…

5/5

広島市内には、原爆の犠牲者を追悼する慰霊碑が200以上ある。同市のホームページに、その所在地や建立の時期、碑に刻まれた鎮魂の詩句などの一覧表が載っている。市民団体や郷土史家らの協力を得て取りまとめた。この国の悲しい歴史を知る貴重な資料である。…

5/4

フランスの作家で、SFの父とたたえられるジュール・ヴェルヌは1872年に一本の新聞連載を持った。ある英国貴族が期限までに戻ると友人たちに宣言し、世界へ旅に出る。タイトルは「八十日間世界一周」。新聞の部数がたちまち増えるほど人気を博したという。 ス…

5/3

韓国できのう、化粧品会社の株価が取引開始直後に上昇したそうだ。新型コロナウイルス対策で2020年10月から続いていた屋外でのマスク着用義務が解除され、メーク関連の需要が高まると見込まれた、と外電は伝えている。なるほど、そんな展開もありそうだ。 こ…

5/2

自転車が日本に伝わったのは幕末から明治初頭にかけてとされる。自動車より少し早い。「自転車の文化史」(佐野裕二著)によると、当初は若者の玩具扱いで、周囲からは白い目で見られていたそうだ。事故もあったのだろう。普及につれてルールも整備された。 …

5/1

「五月という月は若いものにだけ許された季節ののような気がする」。日本画の大家、鏑木清方は随筆「若葉」にこう記した。鮮やかな緑、強く匂う花々、きらめく光。「美しいけれども今の私にはまばゆすぎる」と嘆く還暦近い画家も、障子を貼り替えこの月を迎…