11/23 W杯と政治

第1回のサッカーW杯は独立100周年を迎えた南米ウルグアイで1930年にあり、優勝も果たした。決勝で敗れた隣国アルゼンチンの首都ではウルグアイ領事館が襲われ、以後、両国は7年の断交に至る。第2回、34年のイタリアは「史上最悪の大会」と呼ばれた。

ムッソリーニファシズム誇示の場とし、審判の買収などに走って、頂点に立った。世界中で圧倒的な人気を誇る競技ゆえ、国の威信がかかり、政治宣伝の絶好な機会とされる。W杯誕生時からの宿命であろう。今カタール大会では、強い発信力を使って、選手らが専制に反発し、弱者に寄り添おうとする主張が目立つ。

イラン代表は試合前の国歌斉唱を拒んだ。自国内で女性が風紀警察に拘束され死亡した一件への抗議らしい。欧州のチームの主将が差別反対を訴える腕章をする動きは、国際サッカー連盟FIFA)から止められた。選手らの間では開催国での移民労働者や性的少数者への対応をめぐり、開幕前から批判が上がっていた。

「欧州は道徳的な教えを説く前に、世界中で3千年間してきたことを今後3千年かけて謝罪すべきだ」。FIFAの会長からは、こんな発言まで飛び出した。期待高まる日本の初戦を前に東西の歴史の学び直しを勧められるとは。ゴールを目指す競り合いと同時に、試合以外の駆け引きも気になる。W杯の秘める奥深さか。