12/17 君たちはどう生きるか

作家の山本有三が昭和初期に編集、新潮社が発行したのが全16巻の「日本少国民文庫」だ。満州事変を経て軍国主義が日本を覆い、自由な執筆が年々難しくなっていた時代。「子どもたちだけはまっすぐ伸びてもらわなければ」と自ら出版社に企画を持ち込んだ。

山本が目指したのは子供向けの教養書シリーズだ。自由で豊かな文化やヒューマニズムを伝えるため、内外から文章を集めた。過去の名作文学や偉人伝などにまじり、新作として書かれたのが最後の配本となった吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」だった。理不尽な暴力や差別とぶつかり成長する少年を小説に描いた。

来年夏、宮崎駿監督による同名の映画が公開される。独自の物語だが発想の起点に同書がある。「自分が善良な人間だから善良な映画を作るんじゃない。くだらない人間だと思っているから、善良な人が出てくる映画を作りたい。(インタビュー集「風の帰る場所」)と、かつて語った監督。新作も善き人の物語だろうか。

自由な社会を願い刊行された「日本少国民文庫」だが、完結とほぼ同時に盧溝橋事件が起こり日本は本格的な戦争に入る。宮崎監督が前作「風立ちぬ」での引退宣言を撤回し、「君たちは…」の制作を発表してから5年。当時よりも戦争も暴力もずいぶん身近になった。映画公開の時、世界はどんな姿を見せているだろう。