2/24 戦争という不治の病

この世から戦争をなくすにはどうすればいいか。SF作家の星新一は熟慮の末、少々極端で奇抜なアイデアを考え出した。「辞書やマスコミに戦争という語が出るのを禁止し、いかなる芸術品でも文学でも、戦争に関連したものは捨ててしまう」(エッセー「平和学」)

時代はベトナム戦争の只中。戦争という概念を丸ごと人類の過去、現在、未来から葬り去る。この案が現実になった世界を「白い服の男」という小説にもした。人々は思想警察に監視され、戦争の「セ」を口にしただけで拷問される。歴史は改ざん、小説は焚書の対象に。「平和」のためなら、すべての犠牲は許される。

いくら何でもやりすぎだが、このくらいしなければと、作家は本気で考えていた節がある。我々がこの1年間、目にしてきた不条理を振り返ると、全く理解できないともいえない。国際社会の警告も制止も振り切って侵略は始まった。目の前の愚行を止められない。痛ましい犠牲者の姿に、無力感に打ちひしがれそうになる。

そんなとき思い出す言葉がある。現実主義で知られた政治学者、高坂正堯氏の「絶望してはならない」である。やはりベトナム戦争下に書かれた著書「国際政治」にある。戦争は人間にとって「不治の病」。だが医者が患者を見離さないように、治療を続けていかなくてはならないと説く。それが「人間のつとめなのである」。