3/1 聴覚障害者の逸失利益

聴覚障害を持つ女児の逸失利益は全労働者の平均賃金の85%が妥当と判断した大阪地裁の判決。

・人の個性によって命の値段が異なる現実をどう考えたらいいのか。

#ケイコ 目を澄ませて

#逸失利益 大阪地裁

 

最近、公開された映画のなかで最も評判の高い作品の一つは、三宅唱監督の「ケイコ 目を澄ませて」だ。聴覚障害のある元プロボクサー、小笠原恵子さんの自伝が原作である。セコンドの指示や観客の声援は聞こえない。静寂の世界を想像させる映像に引き込まれる。

琴線に触れるセリフがあった。耳が不自由なケイコはプロデビュー後、健常者に勝利を重ねる。彼女には何か特別な才能があるのか。取材に訪れた記者は、ジムの会長に質問する。三浦友和さん演じる会長は、「才能はないかなぁ」とつぶやく。でも、続けて誇らしげにこう語るのだった。「人間としての器量があるんですよ」

大阪市で5年前、聴覚支援学校に通う当時11歳の女児が重機にはねられ亡くなった。将来、就労で得られたはずの「逸失利益」の算定基準を争点にした訴訟で、大阪地裁は全労働者の平均賃金の85%が妥当と判断した。健常者と同水準に、との遺族の願いはかなわなかった。が、裁判長は、なるべく平等に、と考えたのか。

将来、聴覚障害者の収入上昇が見込まれる社会情勢を考慮した。ただ、人の個性によって「命の値段」が異なる現実をどう考えたらいいのか。判決後、お母さまは、笑顔のまな娘の遺影を抱きしめた。愛情を一身に受けて育ったのだろう。他者の痛みが分かる、器量のある大人になったはずだ。その損失は計りしれない。