3/18 十三回忌の春の節目

臨済宗の名僧・白隠禅師は、「南無地獄大菩薩」と大書した。地獄に向き合うことにより、人びとに菩提心=他者の幸せを願って行動する気持ちが芽生える。そんな意味だと聞いた。東日本大震災の直後、福島県三春町の僧侶で作家の玄侑宗久さんに教えていただいた。

墨をたっぷり含んだ白隠の肉太の書を、美術館などでご覧になった方もおられよう。地獄とは悪人が死後に赴く場所ではなく、この世界に時折、現れる時空なのだろうか。未曾有の被害をもたらした天災に私たちは、胸の前で手を合わせるしかなかった。あの時、列島は儀式化されない原初の祈りに満ちていた。

きょうは、彼岸入りである。私鉄の車窓をぼんやり眺めていると、土手に菜の花が咲いていた。各地から桜の便りが届いている。日本で越冬した渡り鳥が北へ去り、そろそろ南からツバメが飛来する季節だ。街は春の色に染まりつつある。「3.11」から干支が一巡した。仏教の年忌法要でいえば、十三回忌の節目である。

東京電力福島第1原発事故で、茨城県に転居した福島県双葉町のご夫婦の墓参に同行いたことがある。無心に墓を洗い、合掌していた。今年も原発の周辺地域で同様の光景が見られるのだろう。先祖の供養だけでなく、災害の傷跡に静かに思いをはせる時間にしたい春の彼岸だ。菩提心には、ほど遠い凡夫の身ではあるが。