3/19 Winnyの反省

Ifが禁物といわれる史実を描いて「もしも・・・」と考えさせるドラマこそ、すぐれた歴史物語だと思う。過去から現在へ、無数に枝分かれする道筋の、どこでどう選択を間違えたのか教えてくれるからだ。公開中の映画「Winny」はまさしく、そんな作品だった。

主人公は天才プログラマー金子勇さん。東京大在籍中の2002年、ファイル共有ソフトウィニー」を世に出した。デジタル時代を先取りする技術だったが、悪用されて映画や音楽がネットに流出。著作権法違反ほう助の罪に問われた。純粋に科学を信じ愛した技術者は理解不能なものを受け入れない社会に拒絶された。

たかだか20年前の出来事を歴史と呼ぶのは大げさと思われるだろう。しかし、デジタル世界はそれくらい進歩が速い。ほかの分野なら1世紀かかる革新が瞬く間に起きる。もしも金子さんが何にも邪魔されず、ソフト開発に没頭できる社会だったら。GAFAのようなテック企業が今ごろ日本に存在したかもしれない。

やっと無実を勝ち取ったものの、プログラマーに復帰して間もなく、42歳の若さで世を去った。不当な逮捕と闘った7年はあまりに長かった。日本経済が被った損失は大きい。それでも希望はある、と映画は伝えている。才能と情熱はこの国に眠っているのだ。次に同じ場面に出会ったら、今度こそ正しく理解し育てたい。