3/31 桜並木に込められた願い

常磐線をおりると、淡いピンクのトンネルに目を奪われた。福島県富岡町夜の森地区、東北屈指の桜並木だ。花見の子供がはしゃぎ、老夫婦が静かに仰ぎ見る。復興拠点として徐々に立ち入り規制が緩和されてきたこの地区はあす、避難指示が全面的に解かれる。

街を歩けば、原発事故までの暮らしの匂いをまといながら朽ちた建物が野ざらしになっている。美容室のガラスは砕け、食器が散乱したままの家屋もある。一方で槌音も響いていた。これからは居住が可能になるため、住宅の新築工事が行われているのだ。帰還を目指し、苦難の道のりをたどってきた人々の決意を思った。

同町は今月11日、震災から12年を経て慰霊碑を建立した。太平洋を望む碑には、被災者の悲痛な心情が刻まれている。不明者を十分に捜索できなかった後悔。避難生活で疲弊し失われた命へのやり切れなさ。「今を生きる我々の胸には大きな傷が残っている」。波音が洗う碑を前にすると胸が締め付けられる。復興は道半ばだ。

それても、少しずつ歩みを進めていく先にしか答えはないのだろう。町内の通り沿いには「30年後の故郷に贈る」と題したメッセージプレートを添えて桜の苗木が植えられていた。安心して暮らせる古里を取り戻す。そんな願いを背に、夜の森の桜並木はこれからも延びていくのかもしれない。明日からライトアップも始まる。