5/23 被爆からの再生

東武東上線森林公園駅(埼玉県滑川町)の駅舎には、南から飛来したツバメの巣が数多くある。子育ての真っ最中だ。周囲には緑豊かな丘陵が広がる。エサが豊富なのだろう。なんとも平和な駅からタクシーで10分ほど。国内外の人々が集う小さなギャラリーがある。

「原爆の図」の連作屏風絵で知られる丸木位里、俊夫妻の作品を展示する「丸木美術館」である。先週末に訪ねると、家族連れなどが静かに鑑賞していた。広島県出身の位里は、原爆投下の数日後に東京から汽車で現地入りした。複数の親族が犠牲になった。放射線を浴びた一人ひとりの身体を、克明に描く筆致が特徴だ。

被爆者の森重昭さん(86)を取材したことがある。2016年5月、現職の米大統領として初めて広島を訪れたオバマ氏と平和記念公園で抱擁を交わした人だ。黒い雨が注いだあの日。腹部をおさえる女性に声をかけられた。「近くに病院はありますか?」。内臓が見えていた。あの光景が忘れられない、と語ってくれた。

森さんは歴史家でもある。被爆死した米兵捕虜に光を当てた。丸木夫妻に「虹」という作品がある。倒れた米兵を描く。悲劇に国籍の別はないのだ。絵の端に青い虹が架かる。井伏鱒二は「黒い雨」で虹を再生の隠喩にした。同じ祈りを込めたのか。悲しい絵だが美しい。核兵器による威嚇が切実な今、私たちの胸に響く。