5/30 公共トイレという空間

世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭役所広司さんが男優賞を受賞した。受賞作「パーフェクト・デイズ」のヴィム・ヴェンダース監督は小津安二郎監督のファンで知られ、小津映画の往年の名優の名をあげて「わたしの笠智衆」と役所さんを紹介したという。

映画の主人公は渋谷の公共トイレの清掃員だそうだ。渋谷では2020年ごろから建築家らによる個性的なトイレがつくられた。ふだんは透明で、使用者が入ると不透明になるハイテクトイレは、中に不審な人がいないかが見える安全性をうたっている。映画では平穏な日々を送る実直な男性がこれらを一生懸命掃除する。

いま、トイレをめぐる議論がかまびすしい。いわゆるジェンダーレストイレの是非についてである。設置をすすめる取り組みの一方で、迷惑行為や犯罪が起きかねないとの懸念もある。米国でも一部の州で「男性用」「女性用」の区別をなくしオールジェンダーの個室をもうける試みがあるが、戸惑いの声も上がっている。

さまざまな意見はあろう。しかし、誰もが安全、平等にトイレを使用することに異論はないはずだ。配置や仕様も工夫できるはず。建築家やデザイナーの腕の見せどころだ。ヴェンダース監督は「平和と高貴を持ち合わせたささやかな領域」と日本の公共トイレを評した。日本人として賞の受賞と同じくらい誇らしかった。