6/5 鬼退治の罪

女性ロックバンド、ガチャリックスピンの「カチカチ山」が小気味いい。感情の揺れをリズムの緩急にたくみに乗せる楽曲と合わせ、ぐっとくるのはその歌詞だ。わずわらしい人間関係を昔話に例えて描く詞のトーンが、上司をやっつけて喜びたいと思った瞬間変わる。

桃太郎の話をふと思い出し、どっちが正義なのか自問してこう気づく。「鬼だって生活も守りたいものだってあるもんね」。平和を愛する鬼を桃太郎が退治する短編を芥川龍之介が書いたように、このテーマは多くの作家を刺激してきた。大切なのは対立する他者の立場への想像力。民主主義の要ともいえる洞察だろう。

米国の国債がかろうじて債務不履行にならずにすんだ。社会の分断を象徴する与野党の対立を乗り越えて、史上初の不履行を避けるための法案が可決した。バイデン大統領は「これ以上にないほどの危機だった」と野党との交渉をふり返った。どれだけ激しくぶつかり合おうとも、とことん議論すれば歩み寄ることができる。

これにて一件落着。と言いたいところだが、そうはいかない。もし決裂すれば今日にも資金繰りに行き詰まり、世界経済を大混乱させていた。この国に想像してほしいのは、国内の駆け引きが他国の「生活や守りたいもの」に及ぼす影響だ。それができないなら、力ずくで世界地図を書き換えようとする勢力がほくそ笑む。