6/10 天皇皇后両陛下の原点

結婚30周年を「真珠婚」と呼ぶそうだ。養殖真珠はアコヤ貝などの中に、別種の貝を移植する。自力で排出できない異物を、光沢のある分泌物で時間をかけて幾重にも包み込む性質を利用している。自らの痛みをやがて輝きに変える。真珠の美とは時の流れに宿るのだ。

天皇、皇后両陛下はきのう、結婚30年を迎えられた。オープンカーのお二人が、笑顔で沿道の人々の祝意に応える。あの晴れがましい日からずいぶん時が流れた。決して平たんな道ではなかったはずだ。お世継ぎを期待される重圧はいかばかりであったか。皇后さまは適応障害と診断され、今も体調は万全ではないと聞く。

天皇ご一家は先日、東京・日本橋の百貨店で開いた結婚30年の特別展をご覧になった。本紙報道によると、その際、愛子さまは「(プロポーズの言葉を)再現してみて」と陛下に促されたそうだ。機知に富むまな娘のツッコミに、慈父は思わず苦笑いされたとか。その和やかなやり取りを想像し、なんだかうれしくなった。

両陛下は「時には悲しみを共にし、これまでの歩みを進めてこられたことに深い感謝の念を覚えます」との感想を公表された。人々の痛みに寄り添う。お二人の公務の原点だろう。「なみだは にんげんのつくることのできる 一ばん小さな 海です」とは、寺山修司の詩だ。小さな海で育まれた真珠の輝きを祝福したい。