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高峰秀子は学校にほとんど通えない少女時代を過ごした。のちに昭和を代表する女優となるこの人が、松竹蒲田の子役としてデビューしたのが5歳のときだ。昼夜をおかず働かされ、義母や親族らを養っていたという。周囲は撮影所の、世間ずれした大人ばかりである。

厳しい境遇のもとでも、しかし、向学心だけは失わなかった。ロケの合間には担任の先生が渡してくれた本を読みふけり、長じてからも読書に明け暮れる。やがて自伝「わたしの渡世日記」や数々のエッセーを残した文章力は、そうして得た素養が支えたに違いない。読み手は知らず知らずのうちに、本に育てられるのだ。

文部科学省が今年の学力テストのさい、初めて「家庭の蔵書数」を子どもたちに尋ねたところ、家にある本の数が多いほど、テストの正答率が高い傾向がくっきり出た。本がたくさんある家庭はそれだけ知的な雰囲気が強いことになるが、じつは経済的な余裕があってこその蔵書数でもあろう。かくして教育の格差は広がる。

そうはいっても、秀子のように逆境をはねのけて学びを求める子どもは、いまだって少なからずいよう。調査結果を分析して、やる気のある子と、その家庭を後押しする政策をしっかり練ってほしいものだ。もうひとつ、大事なことがある。かの大女優は周りの人々を、みな師として学んだ。大人はそれほど見られている。