2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

9/30

映画「十戒」は旧約聖書「出エジプト記」を原典にした大作である。圧政に苦しむイスラエルの民が天啓を受けたモーセに率いられ、エジプトを脱出する。人びとは家財道具を荷車に積み出発した。映画では、「世界に自由が生まれた日である」との語りが挿入され…

9/29

ことしのプロ野球シーズンが最終盤を迎えている。リーグ優勝や個人の記録を伝えるスポーツ面の隅で、選手の引退が報じられている。爽やかな笑顔でバットを置くスターがいれば、記者会見もなくそっとグラウンドを去る後ろ姿もある。それぞれの引退模様だ。 か…

9/28

日本武道館を抱える北の丸公園の一角に、吉田茂元首相の銅像がある。日本初の国葬後に建てられ、木立の間で静かにただずんできた。それがここ数日、急に身辺が物々しくなった。警官が絶えず見回り、ヘリが舞う。近くのお堀には警視庁のダイバーが潜っていっ…

9/27

公園や川の土手を曼珠沙華が彩ったお彼岸も、昨日で明けた。本来ならナシにカキなど実りを供え、故人を静かにしのぶはずが、今年はどうも気持ちの収まりがつかなかった感じだ。安倍晋三元首相の国葬をめぐって賛否が激しく対立しているゆえだろうか。 人々の…

9/26

高速増殖炉の真上をホバリングするヘリコプター。犯人の要求は国内の全原発を使用不能にすること。拒めばヘリは墜落し原子炉を直撃するという。2015年に映画になった東野圭吾さんの「天空の蜂」は原発の「安全神話」の虚をついたサスペンス小説だ。 刊行され…

9/25

自分に届いた郵便物を手に新入社員が先輩に尋ねる。「これ何でしょう」「召集令状じゃないか」「召集令状って、いったい何です?」。小松左京さんのSF小説「召集令状」はそんな会話から始まる。舞台は終戦から18年後。戦争を知らない若者が街に増え始めた頃…

9/24

東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた宮城県の南三陸町。10月1日開館の震災伝承館「南三陸311メモリアル」を、おととい一足はやく見学した。「命を守る難しさを伝える。目的はこれに尽きる」。佐藤仁町長らの強い思いで完成にこぎつけた施設だ。 町民た…

9/23

歌舞伎などの芝居で背景の山や川、橋などを描いた大道具を「書き割り」と呼ぶ。貧乏暮らしで家財道具を売り払った男が、近所の画家に豪華な家具を描いてもらい家の壁に貼る。武道の腕があるように見せるため、ついでにヤリも。古典落語「だくだく」である。 …

9/22

「信なくば立たず」。日本の政治家はこの言葉をよく使う。岸田文雄首相も1年あまり前に自民党の総裁選に立候補したときにこのフレーズを使い、さらにこう語った。「政治の根幹である国民の信頼が崩れている」。立て直したいとの決意の表れだったはずだ。 岸…

9/21

記者になりたてのころ、よく原稿の書き方を注意された。いまも覚えているのは抽象的な表現の乱用である。「非常に長い行列」ではなく、「50メートルの行列」と書くべし。具体的な数字を挙げてこそ、人に正確な状況を伝えることができる。記事だけのことでは…

9/20

太平洋戦争の火ぶたを切ったのは、真珠湾攻撃ではなかった。その約1時間前に、英領マレー半島への上陸を試みる日本軍と英国軍の戦闘が始まっている。新鋭戦艦プリンス・オブ・ウェールズはマレー沖で日本の攻撃機に沈められ、チャーチル首相に強い衝撃を与え…

9/19

詩人の鈴木志郎康さんが、「放り出された『老い』」というエッセーの中で、さまざまな高齢者に自らの人生を語ってもらった体験を振り返っている。経営者。農家の主婦。「ふつうの老人たちなのに、どの人の場合も私は感動しないではいられなかった」と記す。 …

9/18

不老不死で知られる生き物がいる。日本の海にも生息するベニクラゲだ。老いて死期が近づくと、幼体に若返る。先日、その秘密を突き止めたとスペインの研究者が論文発表した。染色体の末端部で寿命を決めるテロメアの劣化を防ぐ仕組みが備わっていたという。 …

9/17

明治生まれの沖縄出身の詩人、山之口貘は、文筆で身を立てるため、作品の束を抱えて上京した。二度と郷里に戻らぬ覚悟で。職業を転々とし、公園や駅のベンチ、友人宅で寝泊まりする放浪生活がしばらく続いた。食うや食わずの厳しい都会生活だった。 ある夏の…

9/16

角川書店の創業者である角川源義が出版事業を通じて美しい日本、なつかしい日本を人々に語りかけたい、と思い立ち会社を興したのは1945年のことだ。その息子は、あの夏の祭典で経営者として大切な何かを見失ったのか。東京五輪汚職事件で角川歴彦・KADOKAWA…

9/14

最近「価格改定のお知らせ」を街のいたるところで見かけるようになった。値上げの秋たけなわである。日銀が発表した8月の企業物価指数は、前年同月比9.0%の上昇だった。原材料の値上がりにもう一段の円安で、消費者物価への波及がさらに進みそうである。値上…

9/13

沖縄復帰以来、半世紀で14回目となった知事選は玉城デニー氏が再選を決めた。「辺野古ノーの民意だ」という知事に「辺野古が唯一の解決策」とくり返す政府。こじれる対立から浮かぶのは、不信の2文字か。基地のような複雑な問題では利害の衝突は避けがたい。…

9/6

新型コロナウイルスの直撃を受け、昨年夏に1年遅れ開催にこぎつけた東京オリンピック。あの祭典は汚れたカネまみれだった疑いが一段と強まっている。前回の東京大会が開かれた高度成長の時代は遠く、衰えの目立つニッポンを象徴するような事件である。組織委…

9/5

月へ、そして火星へ。壁にぶつかりつつ宇宙への旅が再始動しようとしている。アポロ11号の月面着陸の数年前、4時間余りで地球を3周し帰る宇宙船があった。乗るのは工学を学んだ軍人だが、詩人の魂を持つ男といわれていた。窓から見る光景の美しさに心を奪わ…

9/4

全国の小学5年、中学2年生へのスポーツ庁の調査では、運動が嫌いな理由の上位に「体育の授業でうまくできない」が上がる。運動への苦手意識は学校の体育の授業にも関わりがあるかもしれない。京都教育大学名誉教授の井谷恵子さんは「スポーツが上手になるこ…

9/1

核軍縮を進め、東西冷戦終結に尽力したゴルバチョフ元ソ連大統領が旅立った。彼は権謀術数渦巻くクレムリンの主というより、理想を語る改革の旗手のようにみえた。91年、ソ連が崩壊し、権力の座を降りた。失業者は膨れ上がり、インフレの波が押し寄せた。ノ…