2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

6/29 鉄道で思いを馳せる

2月に亡くなった松本零士さんは18歳のとき、ふるさと小倉から東京行きの夜行列車に乗った。かき集めた全財産は700円。ゆで卵を3つ買い、1つだけ食べた。車窓越しに人家の明かりや星を眺めながら家族の顔を思い浮かべ、漫画家として身を立てる覚悟を決めた。 …

6/28 中世の動乱とワグネル

先日からインターネット上に「御所巻」なるワードが飛び交っている。室町時代に大名たちが将軍の邸宅を取り巻き、あれこれ要求を突きつける騒ぎをこう呼んだという。受験生必携の山川出版社刊「日本史用語集」にも載っていない、マニアックな言葉である。 そ…

6/27 失われた色彩

野見山暁治さんは先の大戦で満州のソ連国境に配属された。雪、樹、霧。画家の目には色のない世界と映った。ある日、凍土にカーキ色を見つける。夢中で掘って現れたのはミカンの皮。色のある所へ帰りたい、そう思い涙したと綴った(「人はどこまでいけるか」…

6/26 育児はワンオペに向いていない

「人間の育児はワンオペに向いていない」。生物学者で学生時代に起業した高橋祥子氏の言葉だ。今春、愛読書のインタビューの折に聞いた。高橋氏は「こども未来戦略会議」のメンバーで、取材の数時間後には官邸での会議に赤ちゃんを連れて出席、話題にもなっ…

6/25 推し活の魅力

早稲田大学の演劇研究部が「推し活!展」という催しを開いている。アニメの登場人物や芸能人などを熱心に応援することを、「誰かを推す活動」から推し活と呼ぶようになった。若い人の自己紹介では自分の推す対象を語る人も多い。それだけ普及しているわけだ…

6/24 好奇心と人命

土星の周囲を回るたくさんの衛星の一つに「タイタン」がある。窒素を中心とした分厚い大気に覆われ、可視光で表面を見ることができないこの衛星には、ある特別な期待が寄せられている。太古の地球に似ており、生命が存在する可能性が指摘されているのだ。 好…

6/23 平和の杯

地方を訪れた際の楽しみは地元の食と酒である。先日出張した沖縄では泡盛を味わった。小さな居酒屋のカウンター。豆腐ようや島ラッキョウをさかなに伝統的な酒器カラカラで古酒(クースー)をちびり。口に含むと甘い香味が鼻に抜ける。つい杯を重ねてしまっ…

6/22 インドネシアに残った日本兵

「独立は一民族のものならず 全人類のものなり」。東京都港区の古刹、青松寺にこんな石碑がひっそり立つ。碑文を寄せたのは、インドネシア建国の父、スカルノ元大統領である。同国の独立に尽力し、当地で倒れた二人の日本人の遺徳をしのんで鎮魂の辞を贈った…

6/21 優生保護法の異様さ

「常習犯罪者は強制断種すべきだ」「悪質な遺伝因子を残さない制度が必要だ」。戦後まもない国会で、優生保護法の制定を訴える議員らが訴えたのはそんな主張だった。焦土の中で人口が急増することへの懸念もあり、貧困層は妊娠させるべきでないとの声すら出…

6/19 気づかない日本の魅力

都内でフォークソングなどに描かれることの多い街が高円寺だ。古アパートに若いミュージシャンがギターを肩に路地を歩く。「高円寺駅で降りることが誇りだった」。中島卓偉さんの歌「高円寺」の一節だ。吉田拓郎さん、竹原ピストルさんにも同名の曲がある。 …

6/18 仕事のやりがい

「課長、ヤリガイお磨きいたします!」。背中に大きな貝を生やした若手社員が上司の背中にとっついた貝をキュッキュとふき始める。自分のに比べてずいぶん小ぶりだが、実直そうな彼は気にしない。1985年ごろに流れていた求人誌のテレビCMである。 キャッチコ…

6/17 失われないアーティストの魂

ビートルズの解散後、何をすればいいのかわからずに、落ち込んでいた。ポール・マッカートニーはかつて英BBCの番組で、音楽そのものをやめようとさえ一時思ったと告白した。ずっと一緒だった仲間たちとの別れも響き、酒におぼれることすらあったという。 当…

6/15 図書館司書の物語

スポーツ選手や芸能人らの「名鑑」はなじみがあるが、こちらはやや意表をつく1冊だ。昨年11月に出版された「司書名鑑」。図書館を裏方として支える31人へのインタビュー集である。図書館との出会い、本を介した人との交流が個人の物語としてつづられる。 岩…

6/14 解散のタイギ

ニュースで「タイギ」を耳にする機会が増えてきた。「早期の衆院解散には大義がない」「内閣不信任案が提出されたら大義になる」。通常国会の会期末を前に、永田町に解散風がそよぎ始めたからだろう。この風が吹くと、しばしば「大義」のあるなしが議論にな…

6/13 クラウゼヴィッツ戦争論

攻撃は最大の防御、という。だがプロイセンの軍人クラウゼヴィッツの著者「戦争論」で、防御は攻撃より強力な戦争形式だと説く。攻撃側は侵攻を続けるために、大量の資源をつぎ込まざるを得ない。国民の支持も得て守りを固める防御側の方が有利との見立てだ…

6/11 偽画像合戦

「民主主義は効率が悪い」。そう主張し、独裁と核武装を掲げ誕生した政治結社がまず日本国内で支持を得て、やがて世界を混乱に陥れる。村上龍さんが1980年代半ばに発表した小説「愛と幻想のファシズム」のあらすじだ。舞台は数年後の近未来に設定していた。 …

6/10 天皇皇后両陛下の原点

結婚30周年を「真珠婚」と呼ぶそうだ。養殖真珠はアコヤ貝などの中に、別種の貝を移植する。自力で排出できない異物を、光沢のある分泌物で時間をかけて幾重にも包み込む性質を利用している。自らの痛みをやがて輝きに変える。真珠の美とは時の流れに宿るの…

6/9 マイナちゃんの混乱

目も耳も数字の「1」。マイナンバーをぐいぐい推してくるあのキャラは「マイナちゃん」というそうだ。デジタル庁はシロウサギの妖精と紹介している。我がスマホの中にも2匹(?)いる。ポイント申請やら何やらで必要というので、以前アプリを2つ入れたのだ。…

6/8 日本的雇用のルーツ

江戸時代には「長松」という名の丁稚がたくさんいたという。商家に住み込みで働く少年の代名詞になるくらい多かったそうだ。もっとも、そんな長松さんたちも手代になれば長吉、番頭に昇進すれば長兵衛などと名を改めた。じっと我慢の出世すごろくである。 奉…

6/7 花暦が狂う

1週間前、取材の合間に東京・日比谷公園に足を運んだ。今年は開園120周年とか。いま時分は春バラが見事だろうと期待したが、花壇はずいぶん寂しい。あらかた花びらは散り、しぼんでいた。例年よりも見ごろが2週間ほど早く、大型連休にピークを迎えたそうだ。…

6/6 生成AIの恐怖

20世紀最後の年。ホンダが二足歩行ロボット「ASIMO」を発表したときの記者会見は、当時のわくわくした気分とともに記憶に残る。背丈は小学生くらい。ずんぐりした体つき。腰を少し落とし気味に両手を振って歩き出すと、報道陣から歓声がもれた。 その姿が一…

6/5 鬼退治の罪

女性ロックバンド、ガチャリックスピンの「カチカチ山」が小気味いい。感情の揺れをリズムの緩急にたくみに乗せる楽曲と合わせ、ぐっとくるのはその歌詞だ。わずわらしい人間関係を昔話に例えて描く詞のトーンが、上司をやっつけて喜びたいと思った瞬間変わ…

6/4 この国を沈没させぬために

「子どもは2人まで」。1974年7月4日、東京で開かれていた日本人口会議は中国の産児制限を思わせるような大会宣言を採択した。増え続ける人口を支えるための住宅や工場、公共施設、農地などを「このせまい国土のどこにどう割り込ませたらよいのか」。 民間の…

6/3 沖縄戦と豪雨

南方から台湾を目指すように進んできた台風2号。進路をぐいっと右に曲げて沖縄を直撃し、けがや停電などの被害を与えた。その後は台風接近の影響で本州や四国など列島各地が大雨に見舞われている。何かが南の島からこの国に近づく時、まず上陸するのが沖縄だ…

6/2 霧島の名

与謝野晶子は1929年夏、夫と鹿児島・霧島を旅した。晶子には初めての土地だ。「華やかに鳴る山川を数しらず脈とするなり若き霧嶋」。霧島連山の絶景に感激したのだろう、躍動感ある歌をいくつも詠んでいる。同じ年のうちにこの旅を主題にした歌集も出した。 …

6/1 自然の脅威と人為災害

きょうは気象記念日だそうだ。1875年(明治8年)6月1日、気象庁の前身にあたる東京気象台が業務を開始したことに由来する。英国で調達した機器類を備え、当初はお雇い外国人技師が1人で観測した、と気象庁のサイトにある。 日本初の天気予報は9年後の同じ日…