1/27 試験の魔物

中国の官吏登用試験「科挙」は、6世紀末に始まり、一時の中断をはさんで、20世紀初頭まで1300年も続いた。食料や布団などを持ち込み、泊まりがけで論語などの古典計62万字の知識を問う壮絶な一戦である。最終段階で、皇帝が臨席した時代もあったようだ。

合格すれば高位としての役人の地位を約束され、教養人として尊敬を集めた。歴史家は「学識あるものが政治を行う文治主義が定着した」と制度を評価する。科挙はほぼすべての男性が受験でき、その分、競争も激しかったらしい。不正の小道具として、細かい字がみっしり書き込まれた下着や指先ほどの豆本が今に伝わり、哀れを誘う。

21世紀、カンニングはデジタルの世界で繰り広げられるようだ。大学入学共通テストの試験の一部が、試験中何かの機器で撮影されネット経由で流出。受け取った学生が解答を返信していたという。警視庁が解明へ動き出した。それにしても周囲が鉛筆を手に集中する中での不審な挙動、誰も気づかなかったのだろうか。

11年前、京都大の問題を試験中にネットに投稿、答えを得た予備校生が逮捕された。携帯電話をももに挟み、隠れて入力したと聞く。そんな技を磨くくらいなら、と科挙の不正ツールを知ったときと同じ、うら悲しさを覚えたものだ。焦りが勉学ではなく、あらぬ方の努力に向かう。昔も今も人を惑わす試験の魔物である。