1/26 電車は社会病理の空間か

新聞の電子版の利点は、各紙の地域版も読み比べることができる点だ。きのうの朝刊で複数紙が、こんな事件を伝えた。「電車で喫煙注意され 高校生に傷害」。車内で加熱式たばこを吸っていた男が、やめるよう促した17歳の男子に殴る蹴るの暴行を加えた。

高校生は、顔の骨を折る重傷を負った。容疑者は、「けんかを売られたから殴った」と身勝手な供述をしたそうだ。記事はこうも伝える。「車両内には高校生の友人3人がいて止めようとしたが、他の乗客は止めなかったという」。常軌を逸した暴力への怒りとともに、我が身も裁かれているような気持ちになった。

緊迫するウクライナ情勢や新型コロナウイルスの変異型の拡大で、世界は揺れている。一方、これは地方都市で起きた小さな事件だ。でも、記事がネットニュースに転載されると多数のコメントが寄せられた。扱いは地味だが私たちの胸に「刺さる」報道だった。もし自分が乗客だったら。後ろめたさが拭えない。

かつて、「電車男」というネット発の純愛物語が人びとの心を捉えた。車内で酔客にからまれた女性を助けた男性の書き込みが、書籍やドラマになった。いまや電車は、他人に理不尽な危害を加える社会病理の空間なのか。高校生は心身に大きな傷を負った。彼の痛みを分かち合う物語を立ち上げることができるだろうか。