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よく知られているように、ゴジラは海底で眠っていた太古の生物が水爆実験の放射能で巨大化し、日本を襲うという設定だ。重い思想的な背景を持つ作風が特徴の武田泰淳は、この架空の生物を題材に60年あまり前に短編を書いた。タイトルは「『ゴジラ』の来る夜」。

いつどこにゴジラが上陸するのか分からず、他国に現れてほしいと各国の首脳が願う。異様な緊張感のもとで理性を失い、陰惨な衝動にかられる人の姿がブラックユーモアたっぷりに描かれる。そして東京をゴジラが襲い、「何かの光線」で町を焼き滅ぼす。それが何を意味するのか、読者の心にある一つの言葉が浮かぶ。

核を暗喩で表す文学とは違い、21世紀の強権者の言葉はあまりにもあからさまだ。隣国に侵攻したロシアの現代の皇帝は、核戦力の運用部隊に「高度な警戒体制に入る」よう命じた。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への制裁を強める決議に反対し、国連の機能を脅かす。かばってもらったその国も、核の脅威を振りかざす。

武田の思想の根底には、実体験にもとづく無情感があるという。戦争の悲惨と敗戦を目撃した彼は、滅亡について思いを沈め、これからの世界は「目にもとまらぬ全的消滅を行い得るであろう」と記した。悲観論が世界を覆うのをいかに防ぎ、国際秩序を立て直すか。勇ましく前のめりになるのでなく、理性が導く行動で。

 

ロシアや北朝鮮の核の脅威がある中で理性が導く行動でどう国際秩序を立て直すか。隣国に侵攻したロシアは核戦力を運用する部隊に「高度な警戒体制に入る」よう命じた。それだけでなく北朝鮮の制裁を強める決議には反対し、国連の機能を脅かす。かばってもらった北朝鮮も堂々と核を振りかざす。作家の武田泰淳はかつて核攻撃をゴジラになぞらえて短編を描いた。しかし、21世紀の強権者の言動は暗喩などではなくあからさまだ。理性によりどう国際秩序を立て直すかが課題になる。