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コロナ禍で旅行が難しい中、鉄道好きの関心を集めたのが高輪築堤の発見だ。明治政府による海上鉄道の跡が、都内の品川駅近くの車両留置線用地の再開発で見つかったのだ。錦絵が描かれた大工事の痕跡は貴重な文化遺産JR東日本は一部を現地保存すると決めた。

この留置線用地を羨望と恨みの目で眺めていたのがJR東海を率いた葛西敬之さんだ。著書「国鉄改革の真実」(中央公論新社)では、雑草が目立つ「実質的な有休地」と辛辣だ。JR東海が使う新幹線の品川基地は遠い湾岸地区に移され、その跡地は国鉄清算事業団の手でオフィスビル街に変身、借金返済に生かされた。

立場で見方は変わろうが、葛西さんによれば「看板会社」のJR東日本にばかり価値の高い土地が渡り、両社共用の駅では「東」が幅を利かせているという。日本の宝、東海道新幹線は東京近辺で広げる土地がなく、駅には余裕がない。今後の増強は難しいという判断がリニア中央新幹線の推進につながったと語る。

その葛西さんが亡くなった。国鉄民営化を主導と評されるが、著書には人間くさい悔しさがにじむ。投資がかさみ公共性も高い鉄道事業は明治以降、各時代の剛腕経営者が担った。リモート勤務での通勤、出張の減少、赤字路線の存廃など新旧の課題が鉄道を囲む。民営化35年。新時代へのレールをつなぐ経営者は出るか。

 

国鉄民営化を率いたJR東海の名誉会長、葛西敬之さんが亡くなった。著書「国鉄改革の真実」を読むとJRの看板会社であるJR東日本にばかり価値の高い土地が渡り、JR東海の用地は隅に追いやられてしまっていることに対する悔しさや恨みなどが読み取れる。リニア中央新幹線の構想の背景にはこういったこともあるらしい。投資がかさみ公共性が高い鉄道事業は明治以降、各時代の剛腕経営者が担ってきた。現在も鉄道は数々の課題に囲まれる。新時代に鉄道をつなぐ経営者は現れるか。