4/18 民主主義を守るために

10年ほど前、フランス西部の地方都市で美術館を訪れた。平日の日中の展示室には筆者ただ1人。モネやルノワールの絵がガラスやアクリルのカバーなしに掛けられていて、絵の具のうねりや迫力ある筆致をじかに見られた。しかもその場に1人の監視員もいないのだ。

後で聞けば、観客が絵に近づきすぎると別室でアラームが鳴り、職員に知らせる仕組みだという。小さな町で人件費をかけずに美術品を守るにはカバーや柵をかけるのが手っ取り早い。でもそれでは絵の息づかいが感じられなくなる。手の込んだ装置は、盗難や破損に備えつつ、人と作品との距離を縮めるための工夫だった。

もちろん、人々が文化財の価値を認め、それを守ろうとすることが前提になる。だから昨年、ゴッホらの名画にスープなどをかけた環境活動家の行為に多くの人が懸念した。美術館は手荷物検査や警備の強化を迫られ、かつて襲撃を受けた「モナリザ」のように、展示ケースに収まった絵を遠くから眺めるしかなくなるのか、と。

15日、岸田文雄首相の演説会場に爆発物が投げ込まれる事件が起きた。選挙中に街頭で政策を語る候補者らの生の声を聞く。そんな市民の当然の権利を妨げる暴力に怒りがわく。民主主義は自由闊達に意見をかわすことで成熟する。その価値を社会全体で守り抜くため、備えを怠らず、不断の努力を重ねるしかないだろう。