9/10

「この紋所が目に入らぬか」。世直しの旅のあちこちで、悪人たちの所業をしかと見届ける黄門さまと助さん格さん。最後の最後に、葵(あおい)の御門の印籠を突きつけるシーンが待っている。ワンパターンとは知りつつも、あの胸のすくドラマに拍手を送った人は多いだろう。

いつの世にも人をとらえて離さない勧善懲悪の物語だが、こちらはそんな生易しい話ではないようだ。アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンが暫定政権を発足させ、かつて強権統治も主導した「勧善懲悪省」復活も宣言した。女性を抑圧し、国民を恐怖で震え上がらせた集団の体質は変わっていないらしい。

イスラム教の勧善懲悪は、直訳すると「徳の奨励と悪徳の禁止」。この教えをタリバンは極端に解釈し、政権を握っていた1990年代後半からの5年間、音楽や映画などの娯楽も禁じた。中部バーミヤン渓谷の仏教遺跡を破壊したのは歴史的な蛮行である。その一方でテロリストをかくまい、やがて米同時テロが起きた。

全世界で衝撃を与えた「9.11」からあすで20年になる。すかさずタリバンへの攻撃に踏み切った米国の姿には、それこそ勧善懲悪の決意がみなぎっていただろう。しかし結局はこの地域を安定させることはできず、駐留米軍の撤退はタリバン流の勧善懲悪を復活させたのだからやりきれぬ。胸のふさがる不条理劇である。