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民家の屋根から隣の塀へ飛び移り、逃げ回るサル。網を持った警察官と、スマホ片手のヤジ馬。ときおりテレビで流れるニュース映像を、米国の知人が興味深そうに見入っていた。欧米には野生のサルがすんでおらず、とても不思議な光景に映るのだという。

それではと、雪景色のなか、人前でのんびりと温泉につかるサルたちの写真を見せてみた。まさに目を丸くして驚く。長野県のこの観光スポットは、コロナ禍以前は外国人で大にぎわいだった。サルは昔話などにもたびたび登場する。私たちの生活に身近な存在であったからなのだろう。日本は世界のサル学をリードしてきた。

その一大拠点が京都大学の霊長類研究所である。霊長類学の父と称される今西錦司さんが創設に関わり、河合雅雄さんらが所長を務めた。以前、研究所の研究員がチンパンジーを指差して「1人、2人」と数えるのを見てびっくりしたが、生物学的にはサルもヒトの仲間なのだ。科学者としての強い信念を感じた。

この霊長研が来年、組織を再編して、名前も変更するという。事実上の解体、と報じられている。チンパンジーの飼育施設をめぐる不正経理問題などがきっかけになったようだ。新施設の名称は「ヒト行動進化研究センター」。研究対象のサル同様、ヒトの行いに目を配っておくべきだった。そんな悲しい話に思えてくる。