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「日本に行きたくて仕方がない」。20代半ば、米コロンビア大で学ぶドナルド・キーンさんは渇望した。だが戦後間もない時期。日本入国は実業家と宣教師に限られる。優秀な教授がいるハーバードに移ろうか。指導を受ける日本文化研究者の角田柳作さんに相談した。

師はこう答え、ハーバード行きを勧める。「仏教の修行僧が一つの修行場から次の修行場へと旅して歩くのは、ごく当たり前のこと、これを『遍参』というのです、と」(私と20世紀のクロニクル)。弟子はその言葉に従った。ハーバード大から英ケンブリッジ大へと歩みを続け、ついに1953年、京都大への留学を果たす。

新型コロナウイルスによる入国制限がきのう、緩和された。在留資格を持ちながら日本に入国できない留学生は約15万人という。そのなかには海の向こうで遍参を続けていた若者もいるだろう。「このままでは日本に見切りをつけられてしまうのでは」。危機感を持っていた大学関係者も少しほっとしているに違いない。

キャンパスにはなおコロナの影が差す。対面の授業は限られ、学校による行動管理の条件もある。キーンさんが日本の伝統文化に触れ、多くの知己を得て、研究者として道を極めたのは周知の通り。後に続く留学生にも幾多の出会いや発見があることを願う。そして、こんな感想を持ってもらうことを。「いい修行になった」。