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99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんは2007年から5年間、本紙に毎週「奇縁まんだら」を連載していた。物故した著名人らとの交流を、豊富なエピソードで振り返っている。とりわけ同じ文学の道を歩む人たちとの出会いや別れ、憧れや畏怖を描く筆致がさえていた。

彼女の初期の作品を酷評した評論家、平野謙の回では、後になって「私の批評が間違っていましたね」と明かされたと記す。平野の滑稽なまでの生真面目さも暴露し、ちょっとした意趣返しにもみえる。長年、不倫関係にあった作家の小田仁二郎の描写には、まだ思いが残っているような、つやめいた余韻が漂っていた。

祝杯も干したが、苦汁もなめ尽くし、出家した後も、聖なる世界と俗界を自在に往還した生涯だった。深く、そして広い体験からほとばしる言葉は、老若を問わず、女性を中心に多くの心を癒やし励ました。作家や社会運動家の評伝に加え、70歳を過ぎてからの「源氏物語」の現代語訳は、文学史に残る偉業であろう。

評価の定まった最晩年においても、かつて愛人だった作家の娘、井上荒野さんに、往時の関係を明かして小説の素材を提供し、耳目を集めた。「恋は雷が落ちてくるようなもの」。奔放で、とらわれない物言いは、もう聞くことがかなわない。語り部であり、人生の灯台のようであり、そして世代を超えたアイドルだった。