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ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」には土を食べる少女が登場する。好物は中庭の湿った土や壁の石灰。悲しいときはカタツムリの殻ごと土を口に入れかみくだく。主人公一家は彼女の癖を直そうと、庭に牛の胆汁をまき、壁にトウガラシを塗るのだ。

英語でgeophaly。「土食」はミネラル補給のために未開社会で広く行われていると手元の辞書にある。寄生虫を防ぎ体内を清浄にするとも信じられているそうだ。紀元前のギリシャではヒポクラテスが土食について記し、エジプトでは治療にも取り入れられた。生き物をはぐくむ土に治癒と再生を託した人々を思う。

「私たちは足元の土より天空の動きをはるかによく知っている」。レオナルド・ダ・ビンチは何百年も前に土壌の神秘をこう言い当てた。ノーベル賞受賞の大村智さんの偉業は、ゴルフ場近くの土から見つけた放線菌がもとになった。±1グラムが含む微生物は数億匹超にのぼるとも。足元の暗闇には未知の可能性が眠っている。

気候変動のさなかシベリアなどの永久凍土の行く末が注目されている。残念ながら「パンドラの箱」となりそうな気配だ。融解が進めば凍結した有機物が分解され、温暖化ガスを放出。新たな感染症を引き起こす微生物も目を覚ましかねないという。土の驚異と脅威。どちらにも上手に向き合う文明社会の思慮が試される。