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赤い表紙の小さな冊子を掲げ、熱狂する労働者、農民、兵士。かつて中国に吹き荒れた文化大革命を象徴するシーンである。民衆が手にしていた「毛沢東語録」は文革中に65億部が刷られたという。強烈なプロパガンダに人々は酔い、やがて社会は深い傷を負った。

21世紀のこの時代に、毛語録がよみがえった観さえある。先週、中国共産党が開いた「6中全会」のコミュニケには勇壮な革命用語と、指導者礼賛の言葉が躍った。「習近平同志は、習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想の主要な創始者である」「党は、習近平同志を党中央と全党の核心としての地位に据え…」

習氏が総書記になって以来、じわじわと進んでいた先祖帰りが本物になってきたらしい。学校では子どもたちが「習思想」を教え込まれ、社会統制の波は芸能界やゲーム産業にも及ぶ。注目の「共同富裕」なる政策も、もとは毛沢東が唱えたものだ。こういう流れが増幅し、忌まわしき文革が再来する近未来を想像してしまう。

往年の中国とは経済力がまるで違う。バイデン米大統領とのオンラインによる首脳会談だって実現した。だからどこかで歯止めがかかることを願いたいが、こうも個人への権力集中が進む中で誰がブレーキを踏めるだろう。それよりも総書記の心をとらえているのは、毛語録にある「東風が西風を圧倒する」かもしれない。