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モーモタロサン、モーモタロサン。外国人の捕手が傍らで突然そんな風に歌い始めたら、バッターは何が起きたのかと戸惑うだろう。そんなユニークな場面が、戦前の日本の球界であった。「ささやき戦術」の主は、米国からやってきたバッキー・ハリス選手だ。

プロ野球が「職業野球」と呼ばれ、新聞の片隅にしかほとんど記事が載らなかった時代。小川勝著「プロ野球助っ人三国志」によると、ハリスは好打者で盗塁が多く、肩の強さでならした。日本語の読み書きを学び、マージャンや将棋もやってこの国になじもうとした。1937年秋には外国人として初のMVPに輝いた。

時代が変わって現在のメジャーリーグ。ほほをぷくっと膨らまし、ホームランをどかんと打つ。投げては屈強な打者のバットが、速球に空を切る。そして塁間を素早く駆け抜ける。1人の選手がすべてやってのけるさまを見る幸せなときを、私たちは今年過ごした。エンゼルス大谷翔平選手が、満票でMVPに選ばれた。

うれしいのは「漫画の世界を超えた」と言われる実績を、現地の多くの選手がたたえてくれている点だ。かつて人気者だったハリスは米国に戻るとき、「カナシクテカナシクテ」とつづるほど日本に親しんだ。大谷選手の活躍はこれからが本番だ。次はどう私たちを驚かせてくれるのか。ああ来年が待ち遠しい。