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1970年代の国鉄のキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」は、初めのころ、社内からも冷ややかに受け止められていた。「なんで日本の鉄道が横文字を使うんだ。けしからん」。こんな声も上がったと、仕掛け人の電通プロデューサー、藤岡和賀夫の回想にある。

斬新なのは、コピーだけではなかった。もとの案は「ディスカバー・マイセルフ」。非日常のなかの自己発見が、この企画のメッセージだったのだ。それゆえ旅行商品の開発より、人々の旅ごころを刺激する策に重点が置かれた。そういう取り組みから半世紀。コロナ禍の横文字は、ご存じ「GOTOトラベル」だ。

政府は長らく停止している事業を、来年1月にも再開するという。恩恵を受ける施設が偏らぬように設定を見直すそうだが、補助金でふくらむ旅ごころはいつまで持つだろうか。年明けまでは旅行を控え、終わりがきたら需要が急減する副作用も心配だ。実務を請け負うのはいつも民間だが、理念は比べるべくもない。

かの名プロデューサーは、同じ時期に富士ゼロックスの広告「モーレツからビューティフルへ」を展開した。要するにSDGS(持続可能な開発目標)である。ディスカバー・ジャパンにもそういう精神性がにじんでいただろう。先人たちは「GOTO」だけでなく、いずれ復活するインバウンドのかたちも問うている。