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都会の生活はすべて闘争なり。「田園都市と日本人」という本の一節だ。著者は内務省地方局有志。明治の末に出版され、1980年代に講談社から復刊された。西洋の都市の裏面、海外で提唱され始めていた田園都市論、日本での可能性などを広く取り上げている。

復刊本の解説で、大平正芳内閣などのブレーンを務めた政治学者の香山健一氏はこう記す。「二十一世紀への日本の国家目標は軍事拡張でも海外膨張でもなく、自然と人工の調和、あたたかい人間関係、豊かで自由で多様な文化をもつ日本型田園都市国家だ」。自然と共存してきた日本は世界の先導役になれるとも説いた。

渋沢栄一らによる東京の田園調布開発、大平内閣の地域振興策など折にふれ浮上する田園都市というキーワード。都市と農村の結婚をうたい緑地の充実を生む一方、負の歴史も抱える。仕事の場に乏しい郊外はベッドタウンとなり、長時間通勤を招いた。便利な道路の開発が消費や人口の流出を後押ししたとの見方もある。

頭に「デジタル」を冠し今また田園都市が政策に掲げられた。耳に心地よい旗印ほど警戒が要る。大手システム会社、通称ITゼネコンなどへの丸投げや機器のばらまきで終わらないか。地方から若者が逃げ出しているとしたら原因は不便さか不自由さか。田園都市の4文字に先人が込めた思いや理念を胸に議論してほしい。