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クリスマス商戦が近づくと米アマゾンの倉庫は大忙しだ。今年のアカデミー賞受賞作「ノマドランド」にも、職を求めてあのロゴを目指す車上暮らしの労働者が登場した。多くが貧しい高齢者だが、西部の厳しくも雄大な自然の中、凛と生きる彼らの姿は気高く見えた。

美しい映像に触れ、詩人の長田弘さんが北米大陸を車で走り、綴ったエッセーを読み返してみた。「祈るために、ひざまずく必要はないのです。ひとが働く。それはそのまま祈りなのです」。昔、ケンタッキー州に共同体を作ったシェーカー教徒の教えという。勤労を重んじ「毎日の生活を人生という仕事として生きた」。

1990年代前半にはすでに同州から姿を消し東部にごく少数がいるばかりだった、と著書「詩は友人を数える方法」にある。だが、シェーカーの手仕事が生み出した日用品は、今も私たちの身の回りに残る。使いやすく片付けやすい椅子やテーブル、手提げかご。簡素で実用性の高い道具の数々は世界中で愛されている。

共同体は消え去ったが「よい一日の証しとしての目立たない、簡素な、慎ましいもの」を残した人々を通し、旅の詩人は思索する。「一個の人生といえるものにとって必要なのは、達成や完成という人生の時間ではなくて、よい一日といえる人生の時間だ」と。今日も一日よく生きよう。人生という仕事を全うするために。