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江戸時代、飢饉に備えて米を蓄える「社倉」という制度があった。いざというときに藩が備蓄する米を低利で貸し出し、庶民を救済する。困窮者には無償で支給した。中国の先例を参考にこの仕組みを考えたのは会津藩主、保科正之。経済に明るく、名君として名を残す。

藩主自らのものとする家訓には「社倉は民のためにこれを置き、永く利せんとするものなり、これを他用すべからず」とある。一時的ではなく未来永劫続く制度を目指し、備蓄米の流用を禁じた。その結果、会津藩では長く凶作による餓死者は出なかったとされる。他の藩もこれに倣い、その後全国に広がっていった。

現代版の社倉といえようか。米国の要請に応じ、政府が石油の国家備蓄を放出するそうだ。経済や社会は石油を栄養源として動く。人間にとっての米と同じかもしれない。もっとも、効果はどうだろう。放出量は数日分というから、飢えをしのぐには足りそうもない。狙いとした価格安定につながるかも不透明だという。

農作物の作況はお天道様しだい。一方の石油の値段は世界経済の動向や産油国の思惑が複雑に絡む。こちらは人為によるところが大きいゆえ、解決の道がある気もするのだが。とりあえず、マイカーではなく公共交通機関を使う。厚着をして暖房は控えめに。ささやかな生活防衛策しか思いつかないのがもどかしい。