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現代と違い、夜通し街を照らす電気がなかったころの話だ。しかも場所はにぎわいから遠く離れた農村。「朝は朝星夜はまた夜星 昼は野畑の水を汲む」。暗いうちに畑に出て、日がどっぷりと暮れてから仕事を終える。江戸中期の民謡集「山家鳥虫歌」にある一首だ。

疲れた体を伸ばし、どんな思いで星を仰いだのだろう。意のままにならない天候は、技術の発達した現在とは比較にならないほど大きかった。それでも明日のため、懸命に土と向き合う。自然が相手の仕事の、今も変わらない精神だ。そして日付が昨日に変わったころ、各地でたくさんの人が夜空に目を凝らした。

太陽をまわる小惑星「ファエトン」が出したちりが、地球の大気に飛び込んで四方に光を放つ。ふたご座流星群の天体ショーだ。SNSには日暮れごろから、一年で最大の流星群への期待の言葉が飛び交い始めた。「見れたらいいな」「願い事は何にしようか」。滑るように夜空を流れる星の動画が次々とアップされた。

宇宙から地球を見下ろすチャンスが民間人にも開けようというこの時代に、制御のきかないウイルスが世界に広がり続ける。笑顔を見せながら人が行き交っていた風景を、つい忘れそうにもなる。それでも積み上げた経験と知見で、乗り越える日はもうすぐだと信じたい。星空を見上げるときのような、前向きな気持ちで。