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青森県津軽地方に「こぎん刺し」という布製品がある。江戸時代の庶民が着物を少しでも長持ちさせようと、麻布を刺し縫いし、厚みを持たせたのが始まり。15年ほど前に訪ねた弘前こぎん研究所で見たそれは、防寒着と呼ぶには美しすぎる工芸品だった。

藍色の地に白糸で細かく幾何学模様が縫い付けてあった。もとの布は着古した粗末なものだ。手で触れると柔らかくはね返ってくる。重ねた布のあいだの空気の層が風や水を防いでくれ水にも浮きやすいので、漁師の上着としても重宝がられたと教わった。寒冷地の暮らしの知恵が生んだ刺し子の伝統は東北各地に残っている。

ニュースを聞き、その寒さを思って身震いした。日本海溝と千島海溝で起こる2つの巨大地震の被害想定である。被災地は寒冷地だ。冬の深夜や吹雪の日に地震津波が起きればどうなるか。高台に逃れても雪や雨に打たれ、水をかぶれば体温が下がって死に至ることも。4万人以上が低体温症になるとの試算もある。

あらかじめ避難場所に防寒具を備えておくなど対策を立てておけば、その数をほぼゼロにできると昨日の本紙が報じていた。津波で流氷が押し寄せてきたら、避難路が雪で覆われていたら。土地の特性や気候に合わせたきめ細かい備えがいる。