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ロシアの作家、ドストエフスキーは常にお金の問題で悩み続けた。自身の賭博癖。無心に群がる親戚たち。人生最後の文章も、小説の印税を早く払ってほしいという編集者たちへのお願いだったという。今年生誕200年、没後140年を迎えた文豪の素顔は妙に人間臭い。

実生活を映してか、作中にもお金が具体的な金額を伴いよく顔を出す。「カラマーゾフの兄弟」では、現金3000ルーブルが殺人事件の鍵になる。他の作品でも登場人物らは信仰の意味など深遠な議論を戦わせる一方で、巨額の遺産からささいな借金まで身分に応じたお金に翻弄される。このリアリティーも人々を引きつけた。当時のロシアは急速な近代化で混乱の中にあった。雑誌「現代思想」で社会学者の大澤真幸さんは、この作家は神と金が生涯の問題で、両者を重ねて見ていたと説く。大沢さんによれば金が新たな神となったのが資本主義であり、神を巡る精緻な議論は資本主義の長所と困難さを考えるヒントとして今も有効だという。

社会主義国ソ連が姿を消して30年たつ。民主国家が世界を覆い安定するというフランシス・フクヤマ氏の「歴史の終わり」論は外れ、旧東側では古い権威主義が復活し旧西側も自由や民主主義が揺らぐ。世情が不安定なときほどドストエフスキーの読者は増えるそうだ。だとすれば文豪の地位は安泰だが、素直に喜びにくい。