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「越後縮」は、新潟県魚沼地域で古くからつくられている高級な麻織物だ。この土地の気候が、人の繊細な手仕事を支えてきた。江戸時代の書物によると、乾燥すると切れやすい糸を雪の湿気が守ってくれたという。「越後縮は雪と人と気力相半ばして名産の名あり」

雪国の文化を著した「北越雪譜」にある一文だ。南魚沼市生まれの商人で、文人でもあった鈴木牧之によるこの書は、豪雪についての迫力の描写で知られる。「寒風は肌を貫の槍、凍雪は身を射の箭」。十返舎一九滝沢馬琴とともに親交のあった著者は、深い雪とともにある郷土の暮らしを世に伝えようとこの本をつづった。

「不要不急の外出は控えてください」。昨年から繰り返し聞いたこの言葉が、またも耳に飛び込んできた。東京都心で初雪が観測されたその日、日本海側を中心に大雪が襲った。「数年に一度」という寒気の影響で車が立ち往生し、電車が止まり、飛行機が欠航した。気を緩めることのできない状況が続く。

北越雪譜で越後縮のくだりを読んだとき、地域の名産を育んできた風土の恵みをありがたく思った。だがそれは、真の雪の怖さを知らない「暖国の人」ゆえの一面の感想だと牧之から言われるだろう。いま目の当たりにしているのは、時代が変わっても気を抜けない自然の猛威だ。影響がこれ以上広がらないことを願う。