1/11 カザフスタンの非常事態

春の花壇を代表する存在といえばまずチューリップが頭に浮かぶ。秋に植えられた球根はいま、冷たい地面の下で冬が過ぎ去るのを待つ。「チューリップ喜びだけを待つている(細見綾子)」。句の通り、心がウキウキするような鮮やかな色彩をめでる日が待ち遠しい。

日本に伝わったのは江戸時代の末期。それより前、17世紀のオランダで投機対象となり「バブル」が起きたことはよく知られているが、原産はヨーロッパではなく中央アジアから中東にかけての地域だという。このあたりの野山には野生種が咲き誇ると聞く。カザフスタンもその一つ。国を象徴する花として愛されている。

そのカザフスタンで混乱が続く。デモが広がり政府が非常事態を宣言した。治安部隊との衝突で多くの死傷者が出たと伝えられる。燃料高騰への抗議だけではなかろう。旧ソ連崩壊による建国から30年。強権的な統治に対する批判が根強かった。国民の胸中には喜びではなく、憂いや不満がたまっていたのだろうと推察する。

大統領が「警告なく発砲を」と命じ、隣国ロシアなどは軍隊を派遣した。産油国の政情不安が世界経済に与える影響も気になるが、なにより案じられるのはかの国の人々の暮らしであり、生命である。チューリップの花言葉は「思いやり」「博愛」。そのふるさとで繰り広げられる非情な現実が、何ともやるせない。