1/10 成人が見た香港

ヤオハンってどんなところ?」。中国の歌手、艾敬(アイ・ジン)さんが30年前に発表した「私の1997」の一節だ。5年後に迫る香港返還。はやる若い女性の心を日系百貨店の名に託した。早く来て1997年。彼氏と買い物や観劇をしたいの。素朴な歌声は世界で流れた。

このヒットを香港の人々は複雑な思いで受けとめていた。天安門事件からまだ3年。押し寄せる「中国」を素直に歓迎していいか。不安からカナダに移住したり、子に外国籍を与えたりという動きも広がった。その後の落ち着きを見て香港に戻る人も多かったが、近年またこの地を離れる動きが若者らに目立つという。

香港の人口は740万人。返還から20年余りで100万人も増えた。日本貿易振興機構JETRO)によれば80万人が流出する一方、本土から110万人が定住した。自然増も50万人おり外国人ヘルパーの出入りも多い。若い顔触れが激しく入れ替わり、揺れ動く歴史にもまれた街を今、政治的な締めつけが襲っている。

香港出身のアグネス・チャンさんが以前、こう記していた。「17歳で日本に来て一番衝撃的だったのは、日本が一つの国であること」。きょうは成人の日。平和のうちに暮らす幸せは、視野が狭まる危うさをはらむ。香港に限らず、世界の同世代は、どんな思いを抱え今を生きているのだろう。そうした目も時に持ちたい。