1/14 どんどに託す願い

漫画家水木しげるさんが、90歳を超え連載した「わたしの日々」で、故郷の鳥取・境港での行事を回想している。「トンドさん」だ。ちょうど今時分、しめ縄や松飾りを各戸から集め、高く積み上げ盛大に燃やす。その火で焼いた餅が水木少年の楽しみだったそうだ。

どんど焼き」「鬼火焚き」など、場所によって呼び名はさまざま。平安時代小正月の15日に宮中で行われた祭り「左義長」にルーツを持つらしい。その名を催しに使い続けている地方も多い。豊作を祈り、災いから身を守る願いを込め、書き初めの失敗作を燃やすと、字が上達するとの御利益があるとも聞く。

「答案用紙どんどに託す供養かな」(村山砂田男)。受験生が成績アップを願ったのかもしれない。とはいえ、今年も多くの人が炎に祈るのは、新型コロナの一刻も早い収束だろう。新たな変異型は驚異的な感染力の一方で、重症化する例が少ないというのが特徴で、従来の施策に見直しを迫り、政府が対応に追われている。

社会の機能や経済の流れを止めずに、ウイルスの封じ込めを図る難路。乗り越えられるか。ちなみに、どんど焼きの塔は、最後に縄などでその年の恵方へ倒すことが多い。日本の各地で吉兆が表れるようで、少し気持ちが明るくなる。気温が低く、降雪も続くが、日脚は伸びて陽光も強くなっている。前途に希望を持ちたい。