1/19 追悼水島新司さん

優れたキャラクターが登場する漫画はね、時代を超えるんです」。かなり前のことだが、水島新司さんに話をうかがったことがある。人気漫画が長く読み継がれる理由をお聞きした。おととい届いた訃報で、電話越しの熱っぽく、優しい口調が耳の奥によみがえった。

言葉の通り、水島作品の登場人物はみな個性の塊である。それでいて試合の描写はリアルだった。代表作「ドカベン」の連載開始は1972年。今よりずっと多い野球少年の心をつかんだのは当然だろう。そこかしこの校庭や空き地で、自称「山田太郎」や「殿馬一人」が走り回っていた。以来、連載は半世紀近くに及ぶ。

自身も野球に夢中だった。地元の新潟で高校野球をやりたかったが、家業を手伝わねばならず進学を断念した。その後両親の反対を押し切って漫画の道へ。己の才能を信じて夢の舞台へ向かっていく歩みは、一流のプロ野球選手と重なるようでもある。もちろん人知れず素振りを繰り返した下積み時代もあったに違いない。

「いくら書いても飽きない」と口にしていたが、一昨年の暮れに突然、漫画家らしからぬ「引退」を宣言してファンを驚かせた。当時81歳。胸中では書き抜いたという達成感と、創作への未練が交錯していたのではないか。それから1年後の悲報である。満員のスタジアムを後にする背中に向け、惜しみない拍手を送りたい。