1/20 風邪の神送り

「昔は医学が頼りなかったんで、病を送ったりする習慣があったんですが…」。上方落語桂米朝師匠の「風の神送り」である。悪い風邪が流行ると、張りぼての人形を作って神となぞらえ、はやし立てて川へ放る。江戸時代は各町内で行われたのだそうだ。

「よそは、みなやってまんねん」。噺では出遅れを焦った面々が、元手を集めるため、賛意に濃淡ある家々をまわり騒動を引き起こす。お世辞で持ち上げ、脅しも交えての戸別のお伺いが続く。いつの世も、大がかりな感染対策を、さまざまな立場の人の理解を得て進めていくのは、難しいことなのかもしれない。

新型コロナを巡り、政府が「まん延防止等重点措置」の適用を16都県へと広げた。飲食店への時短営業の要請などが柱だ。しかし、またたく間に広がり、かつ重症例が少ないという変異型の特徴に即した対応を求める声は根強い。陽性者、濃厚接触者の隔離期間は長すぎないか。自宅や宿泊施設にいる患者のケアは万全か。

社会の働きを損なわぬため、3回目のワクチン接種を急ぎ、検査キットの入手をしやすくする策も大切だろう。落語の方では、町内の善意で人形が無事完成、酒や餅が供えられて「風の神送ろ」と川の方へお引き取り願った。私たちも心ひとつに未知の局面を乗り切りたい。コロナ禍で3度目の春を待つ、きょう大寒である。