2/5 ナポリかつ

岩手県花巻市にユニークな名所がある。いささか寂れた中心市街地の6階。エレベーターが開くと、そこは客がひしめくレストランだ。6年前に閉店した「マルカン百貨店」の大食堂だけが、別の会社の手でよみがえったのである。最近は全国にファンを持つ。

ラーメン、カレー、オムライス、ピザ、にぎりずし。名物はソフトクリームだ。560席のフロアを紺色の制服のウエートレスがゆきかい、まさに昭和の大食堂である。市民に親しまれたデパートの、人気スポットのみをテーマパーク化した趣も漂う。地方百貨店が次々に消滅するこの時代に、なんとまあ、意表をつく策か。

百貨店業界の受難は、すでに大都市にも及んでいる。セブン&アイ・ホールディングスは傘下のそごう・西武の売却を進めるという。実現すれば東京・池袋の、あの軍艦みたいな西武本店だって変化は避けられまい。週末でさえ、にぎわっているのは地下の食料品売場くらいである。このコロナ禍で苦境はいよいよ深い。

往年の「夢の城」はどこへゆく。デパートが身近だった世代には心配な人も多いだろう。ネット全盛の世に「百貨」を売る空間は要らないとしても、消費のワクワク感は守ってほしいものだ。ちなみに、マルカン大食堂のもうひとつの名物は「ナポリかつ」。シニアの胃にはずしりと重いが、なぜだか完食してしまう。