2/16 藤井聡太の強さ

コンピュータによる最初期の「アート」は米ベル研究所のエンジニア、マイケル・ノル氏がつくったといわれる。1962年夏、巨大なコンピュータ「IBM7090」が点と線で描き出した図は、色さえつければ抽象画家のカンディンスキーの絵のように見える。

しかし、ノル氏は「単なるパターン」と呼んだ。近い将来、コンピュータが人の創作をサポートすると予見していたものの、本物のアートとは見なさなかった。60年たっていまやゴッホの筆致を学んだ人工知能(AI)が絵を描く時代になったが、それは機械の創造なのか、そこに想像力はあるのか決着はついていない。

将棋界の頂点を目指す青年は人間ながらAIの感性を自分のものにしたという。記録を更新し続ける藤井聡太五冠の強さを、本紙の連載「藤井時代の将棋界」で知った。将棋の研究にAIを活かすが、機械が指す手をただ暗記はしない。直感やひらめきを生かし、自分の手のように使いこなすあたり、芸術家さながらだ。

情報を取り込み解析し、新しいものを生む。人間の脳もコンピュータと同じ「情報処理装置」との見方がある。では性能を上げればAIもいずれピカソに負けない芸術を創るのか。いやいや、きっとそうではない。将棋の奥深さに魅了され、さらに上を目指す心持ちが、AIのパターンと藤井さんの技を隔てるのだろう。