2/17 真鱈の鍋

魚偏に雪、と書いてタラと読む。先日、読売新聞の俳壇にこんな句が載った。「丸一匹捌くや母の寒鱈汁」。関東在住の男性の投句だが、古里は雪国だろうか。暦の上では立春は過ぎたが、まだ冷え込む。そんな晩は、今が旬の真鱈の鍋で体の芯から温まりたい。

寒流の海から遠い地域で暮らす人には、タラはスーパーでパック詰めされた切り身がおなじみだ。売り場で「丸一匹」の姿に接する機会はあまりない。記者がそのうまさを知ったのは、北海道に赴任した最初の冬。漁師町出身の官庁職員の方が、故郷から取り寄せた大物一匹を捌き鍋をふるまってくれた。忘れられない。

出刃包丁で頭を割り、胃袋や肝などの内臓も余さず鍋に投入する。これが産地ならではの滋味の決め手だ。ネギを加え、土地によって味噌や酒かすで味を整える。青森の津軽地方では「じゃっぱ汁」、山形の庄内地方では「どんがら汁」と呼ぶそうだ。とびきり新鮮なら身の一部は昆布じめにして食す。これは格別だ。

冒頭の句は、少年時代の平穏な食卓の景色を懐かしんだものか。だんらんの中心にいた母の笑顔が、こちらにも伝わる。北京五輪の日本代表の略歴を見ると、幼い頃から雪や氷に親しんだ北国出身の選手が多い。今晩は切り身のタラと白子の鍋で一献傾けようか。平和の祭典が平和のまま閉幕することを祈りつつ。