2/18 南京玉

「おつきさま、やねに、かくれんぼしてる」「おかあちゃんの手、つめたいね、おぶうちゃんの足、ぬくいでしょう」。詩人の金子みすゞは26歳で亡くなる直前、3歳の娘ふさえが口にするたどたどしい表現を手帳に書き留めていた。「南京玉」とのタイトルもつけた。

不仲だった夫に詩作を禁じられた後、心の隙間を埋めたのがまな娘の言葉だったようだ。一つ一つがガラス製の南京玉のように愛らしく、「人にはなんでもないけれど、それを書いてゆくことは、私には、何ものにもかえがたい、たのしさだ」とつづる。我が子の声にじっと耳を澄ませるのは至福の時間だったに違いない。

その母は娘のどんな言葉を聞いていたのだろうか。岡山市で6歳の西田愛菜ちゃんが亡くなり、虐待をしたとして母親と交際相手の男が逮捕された。伝えられる当時の状況からは、助けを求める弱々しい声とおえつくらいしか想像することができない。かつては笑顔でお月さまや肌のぬくもりを語った日もあっただろうに。

泣き声を聞き通報した人もいたが、結局救いの手は差し伸べられなかった。「多忙な状況だが、何とかできなかったのかという思い」。児童相談所の釈明がむなしく響く。悲劇が起き、その度に再発防止の策を話し合う。何度繰り返したことか。今度こそ。わずかなSOSにも耳を澄ませ、書きとめる手立てを考えたい。