3/7 冷戦時代の回帰

時の指導者スターリンを批判し、逮捕され強制収容所へ。その体験を小説にし、後にノーベル文学賞を受賞するが国外追放に。作家ソルジェニーツィン氏が弾圧や出版社の自己規制などをつづる回想録をパリで出版したのは1975年。まだ冷戦の出口が見えない頃だ。

動機のひとつに「わが国のすべての不幸の源となっている、極度の、臆病な秘密主義」へのいら立ちがあると記す。「自分の考えや、起こったことの真相を公然と語らないばかりか、友人にも話さず紙に書くことさえ恐れている」。自分の首の上に吊るされた斧が落ちてくる前にすべてを語っておこうと心に決めたそうだ。

ソ連崩壊で社会は変わったかに見えた。プーチン氏も例外ではない。現代ロシアの作家、ウラジーミル・ソローキン氏がドイツ紙でこう省みる(邦訳は「クーリエ・ジャポン」掲載)。国のトップに就任した当初は、自由な選挙、言論の自由、人権の尊重、西側との協力、権力に固執しない姿勢にも好感を抱いた、と。

そのプーチン氏が今、言論統制と情報鎖国に力を入れる。SNSを遮断し、反戦デモの参加者を拘束する。政権が「虚偽」とみなす情報を広めれば刑罰を科すよう法律を改め、国内の独立系メディアや海外の報道機関は活動が難しくなった。歴史を逆回転させる強権ぶりは、内心の余裕のなさの表れか。