3/15 原発への攻撃

30年前、若狭湾に面した原発を取材で初めて訪れた。真っ青な空の下、近くでのんびりと釣り糸を垂らす地元の人々。その姿がなぜか目に焼き付いている。発電設備を冷やし終えて温まった水が海へ流れ、格好の釣り場を作ると教えてもらった。静かな時が流れていた。

原子の力をエネルギーに変える巨大構造物には、静けさが似合う。メルトダウンの後、人間が放棄したチェルノブイリ周辺の土地は、30年ほどを経て野生動物たちの楽園に戻ったと、前に科学雑誌の記事で読んだ。ヘラジカ、ビーバー、オオカミ、オオヤマネコ、種々の草花に鳥や昆虫。自然は黙々と自らを癒やしていた。

なのにどうだろう。ウクライナを侵攻するロシア軍の砲撃は、その静寂を打ち砕いた。のみならず現役のサポロジエ原発、核研究施設まで襲った。原発の制御は核兵器の扱いより難しいそうだ。破壊力を解き放つだけの武器に対し、複雑なプロセスを管理し、何年にもわたり安定的に維持しなければならないからだという。

人類への許し難い暴挙であり、血が凍る思いがした。と同時に、原子力の平和利用は世界が平和であってこそ成り立つという今更の事実にはっとした。そういえば他国と争いが絶えないイスラエルには原発は存在しない。やがて春。銃声の代わりに鳥の囀り、ミツバチの羽音に耳を澄ませる日々が早く地上に戻るよう祈る。